#7 霊域という社会/深山風護

 最初に表示された題目は「はじめての霊域ガイダンス」だ。


〈私たちは国際霊域れいいき管理機構・日本支部です。あなたのご逝去に、心からお悔やみ申し上げます〉

 アナウンサーらしいクリアな女性の声と、厳粛そうな音楽。

〈慣れ親しんだ人生が終わったことに、今は戸惑いも悲しみも消えないことでしょう。しかしあなたの生活は、形を変えながらも続いていきます〉

 映し出されたのは、この組織で働く様々な人々。なんかこう、新鮮なビジュアルに興味は惹かれるのだが……にじみ出るお役所PR臭さというか……


 情報量の薄い挨拶パートは半目で聞き流す。「霊域の成り立ち」コーナーに入った、さあしっかり聞くぞ。

〈いま私たちの活動している「霊域」は、これまで生きていた「生域せいいき」と平行して存在する、世界の裏側のような領域です〉

 異世界というより、現実の別レイヤーといった方が似合うか。

〈生域で死亡した生物たち。その一部の魂が、霊域に流れ着いて活動を開始します。こうして、〉

 この現象は「転現てんげん」と呼ぶらしい――ということは人間以外の生物もあり得るのか? 後で聞いてみよう。

〈この霊域での姿を「霊胞れいほう」、人間の場合は特に「霊人れいじん」と呼びます〉


 説明されたのは霊胞の構造。外部とは霊胞壁れいほうへきで隔てられていること、魂に相当する霊核の情報に従って霊胞の機能や特徴が決定されること、ここまでは細胞に例えると分かりやすいのが納得。しかし物質というより情報体らしい特性も持つらしく、コピペの要領でワープ的な現象も起こせるらしい。

 ――といった諸々は「研修期間で詳しく学習します」とのことだった。ぶっちゃけ、生前の教育課程よりも面白そうまである。


 トピックは〈二つの霊人・レグマンとバイマン〉へ。バイマン、戦場で見かけたゾンビじみた人型。

〈私たちはこの霊域においても、生前と概ね同じ人格を保持し、理性的な思考力を有したまま活動しています〉

 風護自身もそのはずだ。世界五分前仮説とか、そういう話でない限り。

〈しかし一部の霊人はそうではありません。コミュニケーションも取れずに他の霊人を攻撃する、極めて危険な存在になってしまいます〉


 前者を「制御性霊人」または「レグマン」と呼称、英語名に含まれる"regulated"に由来する。 

「非制御性霊人」となる後者は「凶暴性霊人」または「バイマン」と呼称、英語名に含まれる"violent"に由来する。


〈よって私たち霊管は、バイマンの脅威からレグマンを守ることを、重要な任務の一つとしています〉

 イラスト、盾を持った隊員たちが暴れるバイマンを囲んでいる。風護が見かけたバイマン撃破も、そうした理由だろうか。


 しかし危険であるとはいえ、同じ人間に由来するのであれば、積極的にバイマンを攻撃するのは正しいのだろうか。知的能力でここまで扱いを変えるのは、令和日本で社会的に共有される人権意識からすれば、かなり違和感が強い。


 その疑問に答えるかのように、さらなる事実の提示。

〈そしてもう一つ、重大な問題があります。霊域や霊人の存在は、基本的に生域の人間には知覚されません。しかし、霊域に霊核が増えすぎると、生域の人間の精神に影響が及びます。この現象を「逆遷」と呼びます〉

 生域から霊域への一方通行だった矢印の隣に、危険を強調された逆方向の矢印。

〈逆遷による霊核干渉に巻き込まれた人間は、他者への暴行、器物の損壊、自傷・自殺など、自他を傷つける行動を起こしやすくなります。理性的なブレーキが壊れてしまうからと考えられています〉

 なるほど、これが核心。

〈こうした事態を防ぐために、霊域に存在するバイマンの量を適切に調整すること。それが、私たち霊域管理機構の重要な使命です〉


 自分たちレグマン、そしてかつて生きていた世界の人間。

 世界の両面の同胞を守るために、異形となった元人間を処分する。


 ――非難する人も多いだろうが、風護には納得できた。

 平等を徹底することで平和が崩れるのには、賛成しかねる。


 それから、霊域管理機構の編成について説明。この機構は三権分立でいう行政を担当し、議会と裁判所も存在。その全てが国際機関であり、各国での実務はその監督下で行われる。

 警備・救難といった実戦を行うのは機構の一部門「国際霊域管理連合軍」で、その隷下に「北米師団」「欧州師団」「日本旅団」といった各国担当が存在。つまり編制からすれば、国同士での武力闘争は起きない理屈なのだろう。生域で戦争中の国同士がどうなっているかは気になるが。

 なおバイマンだけでなく「霊管の活動を妨害する勢力」への対応も任務に含まれるという。さっき襲ってきた勢力がこの辺りだろう、あまり詳しくは触れられなかったが。


 そして締めに。

〈霊域で生活するためには、こうした組織のいずれかで任務に従事すること、あるいはそのための教育を受けることが求められます〉

 タダじゃ住まわせてくれないらしい。こうした事情からも人権イズムの薄さを感じる。

〈しかし今は焦ることなく、〉

 この世界についてゆっくり知っていってね~という定型で映像は終わった。


 ――さて、霊域という世界について大まかな理解を掴めてきた、それはいいのだが。

 風護がこちらに転現してからの一連の流れ、アケビに騙されてから攻撃されるまでの事情はさっぱり分からないままだ。風護が出したトンファーと風のアレも、謎。


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