第1章 第4話 使命を乗り越えて

前回までのあらすじ

妖魔軍幹部・人形遣いのチェスターと対峙する音也とアラン

シャルロットの意思を無視して攻撃を仕掛けるチェスターに苦戦を強いられ何とか糸を切断しようとするも物理魔法共に効かずに苦戦をする

カトレアの助言で音也は新たな魔装クロスであるドールズクロスを完成させる

シャルロットを操る糸を切断、ドールズクロスと音也の技量を合わせたブレードダンスでチェスターの左目にダメージを与え、トドメを刺そうとするも将軍クラスのエレシュマの介入によりそれも叶わなずチェスターを逃がしてしまう

そしてシャルロットは問かける「この世界には光と闇どちらが溢れているの?」と

その問いに音也たちは光か闇かは自分が判断することだと伝える


-オーレン最上層・教会-

オーレンの最上階にある教会、ここはアルゼス教団の支部として機能している教会

この場所で再びバアルは玉座にかけている

「勇者は新たなる仲間と変身を身につけたか

なかなかの強者だな」

これまでも音也たちは困難を乗り越え先に進んできたことを評価したバアルの感想だろう

教祖ベルーガに対して言っているのだ

「はっ!バアル様、あの勇者はこれまでの勇者を騙るような小物とは大違いです」

「うむ、これまでと同じ作戦では我が教団員が減り続ける一方だな

それは良くない」

バアルは少し考え指を鳴らす

「フォデラル

我が元に来い」

フォデラルは転送されたかのようにバアルの目の前に来る

そしてフォデラルは不敵な笑みを浮かべバアルに問う

「おやおや、バアル様自らこのフォデラルを呼ばれるとは一体どのようなご要件で?」

「貴様が研究している魔物を合成する実験体

合成魔獣を勇者たちと戦わせる」

フォデラルは少し困ったような顔をし、バアルに言う

「合成魔獣はただの試作段階で本来の目的である合成超獣は完成しておりません!それでもよろしいのですか?」

「これ以上、我が教団で犠牲を出すわけにはいかん

フォデラル、貴様は合成魔獣・ヨルムンガンドを解放し

勇者と戦わせるのだ

それ以外の者はなるべく動くな、勇者を油断させヨルムンガンドで一気に叩き潰せ」

「「はっ!」」

誰もいなくなった教会でベルーガは1人思う

(ヨルムンガンドを出してしまったら恐らく勇者も無傷では済まない

命令違反となるがその前にもう一度戦いたい

教祖としての使命ではなく、一人の男として戦わなければならない)

命令違反…教団では神・バアルに従わなければならない

それを破れば最後、教団員の前で見せしめとして処刑される

しかし、ベルーガは音也ともう一度戦いたいというその思いに嘘は吐けなかった

-side 音也-

オーレンへと戻る音也たち

夜になり辺りも暗くなってきた頃にオーレンの宿に着いた

シャルロットが仲間になったこと妖魔軍幹部のチェスターを退けたことからひと時の休息をとることにした

チェスターを退けたこと、シャルロットを仲間にしたことから皆眠ってしまっていたが音也は違った

将軍クラスの敵が来たことで自分たちがより警戒されていることを考えていたのだ

(将軍クラスを送り込んできたんだ

次はどんなやつを送り込んできたとしても不思議じゃない

俺も早く空を飛べるようにならなければ…)

皆寝静まったころ音也は月明かりに照らされながら剣術の修行をしていた

そして…

「こんな夜中に1人で修行とは少し不用心ではありませんか?」

「お前は…ベルーガか!

俺が1人のときを狙って暗殺とはなかなかやることが…」

「違う」

ベルーガは暗殺を即座に否定し自身の胸中を語る

「私はもう一度貴方と戦いたい

どうか今だけはアルゼス教団教祖、勇者という使命ではなく一人の男としてこの決闘を受けてくれないだろうか

頼む!」

ベルーガは頭を下げてまで頼んでいる

1度目のベルーガからは考えられない

「…ああ、わかった

それと戦う前に言わせてくれ」

「なんでしょう?」

「お前変わったな

本気で勝負しに来てる

今のお前は卑怯な手を使うようなやつじゃない」

音也がそう言うとベルーガは微笑み

「それは最高の褒め言葉ですね!」

音也はムラマサを抜きベルーガは拳を振るう

それを高速で行っているため周りから介入しようものなら怪我では済まないだろう

(あの時よりも…強い!

クロスとやらを使っていない状態で私と互角!

いや、使っていないわけではない

無意識に使っているのだ…!

この気配は魔獣の力…?

ムラマサもその鋭さを増している…!?

しかし、それだけでは無い

アニスやチェスターとの戦いで成長した実力ということですか!)

(精神の成長は肉体にも成長を及ぼすということか

ベルーガはあの時より数段強い!

魔装クロスを使ってない俺でどこまでやれる?

ほんの少し…いや、一瞬でも気を抜いたら俺がやられる!

今は"あの技"も使えない…この状況が長く続けば俺が不利だ!)

お互いに1歩も譲らぬ技の応酬、それは気を抜いたらどちらかが先にやられるという強い確信からだった

「強くなりましたね

これは戦えなくなるのが惜しい!」

「戦えるさ、俺とお前が生き残れば!」

ムラマサと拳がぶつかる

その衝撃は辺りに伝播し、木や建物の窓にヒビが入る

音也の頬にはベルーガの左拳が掠ったためか、切り傷が、ベルーガの右拳には中指と薬指の間にムラマサの刃が食い込み、数センチほど切断される

「ここまで成長するとは…素晴らしい

クロスとやらも無意識で使っているようだ

ですが、ここまでのようです」

「それは一体どういう…」

音也がそこまで言いかけた時、空から何かが急降下してくる

それはあの人形の館と同じ姿であった

「ベルーガ様、そこまでです

我らが神の命令を無視したこと、その意味を理解できない貴方では無いはず」

「エレシュマ…貴女が私を裁くのですね

それもまた良いでしょう」

ベルーガは祈るように手を組み裁かれるのを待った

しかし、エレシュマが言ったことは…

「バアル様はベルーガ様、貴方をを連れて戻ってこいと仰いました」

「何!?

我が神の命令を無視したことを裁くのではなく戻ってこいと!?

そんなはずは…」

音也は2人のやり取りを見ていたが今は戦闘を仕掛ける気もなかった

「戻りましょうベルーガ様

そして勇者…私はあなたと戦えるのを楽しみにしているわ

ベルーガ様の心を乱すその戦いぶり、勇者を騙る偽物なんかじゃ味わえないでしょうね」

ベルーガはエレシュマの書いた転移魔法陣に乗る

去り際にベルーガは音也に

「もし、もう一度刃を混じえる時があればその時はどうかまた…」

そう言ってベルーガは消えていく

音也は静かにムラマサを鞘に収めた

そして1人呟く

「俺もだ

俺ももう一度戦いたいよベルーガ」

その後、宿に戻り音也も眠りにつく

連戦の疲れからかすぐに眠りにつくことが出来た

「お、随分遅起きだな!

珍しいこともあるもんだ

音也が昼まで寝てるなんてな」

目を覚ますとアランが装備の手入れをしていた

昼まで寝ていたようだ

それほどまでに疲れていたのか

「なぁ、昨日夜中にすげぇ音がしたんだけどさ

何だったんだろうな?」

「さあな

俺も夜中に少し目を覚ましたがそんな音はしなかったな」

アランに問いかけられたが音也はとぼけることにした

ベルーガとひと時使命を忘れ戦いあったことは男としてベルーガと音也の秘密にするべきだと感じたのだ

「そうかぁ?噴火かと思うくらいでけぇ音だったけどなぁ」

アランは装備の手入れをする手を止め驚いた顔をしている

音也はアランに微笑みかけ自身の中での思いを語る

(お前との戦いは使命だけじゃない、まるで競い合う友としての戦いであるとも言える

だが、それでもアルゼス教団は俺の手で必ず壊滅させる

"もう二度と繰り返させやしない")


第4話 使命を乗り越えて End

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