第6話 人は思っている以上に何かを考えている
「助けに来たはいいが又新しい女作ってるか、時代はハーレム系の主人公か」
「どう考えてもそうはならないだろ」
こんな状況なのにいつも通りに軽口を叩き、いつもの重苦しいぶすっとしたポーカーフェイスを崩さない。
こいつの素性は何度ループしても分かることはない。
会話の中で素性が割れる様なことは一切言わないし、何回か試しに備考したことがあるが毎回巻かれて終わりだ。
確かなのは僕と同じく物語が大好きで、なんなら現実世界ですらも面白い物語を求めてしまう。
あとハードボイルドな映画が好きで同人誌が好きで、高校からの僕の一番信頼できる親友これだけだ。
「これは随分な登場で、私は寿司を頼んだつもりだったが不審者が来ちまった」
訝しみながら様子を眺め不快感をあらわにする。
「おっと自己紹介もせずレディに失礼だった。」
「俺は黒井 匙だ。趣味は映画鑑賞に筋トレを少々。自慢の部位は胸筋だ。
今日は友人のピンチが見られると聞いて来た次第だよろしく。」
「私は箱屋 烙だ。趣味は金を稼ぐことだ。あと勘違いしてねえかお前?ここは合コン会場じゃねえよ、とっとと失せな。」
「一応自己紹介はするんですね」
「名乗ったのに名乗り返さねえのは筋が通らねえからな」
律儀だなぁこの人。
「上の若いのはどうした?」
「一切の危害を与えずこっちで身柄を預かっている。今日はこのまま互いに何もなくハイさようならとはいかんか?」
「それはこいつ次第だな」
目線で説明しろと促される。
「今の僕には2つの選択肢がある。1つ目はこのまま無事に帰って春下さんと関わらない生活を送る。2つ目はそこにあるリボルバーでロシアンルーレットをして信頼を勝ち取り、協力関係になるかだ。」
「ふーんなるほどな…」
しばらく顎に手をあて何か考え込む。
もしかしてこの状況を全て解決する第3の方法があるのか!
さすが俺の親友だぜ!
期待の眼差しを向けるとあっけらかんと言い切った。
「今日、俺が出来るのは見ていることだけだな」
思わ肩をガクッと落とす。
「いやまじかよ!そこはこう、全てを変える第3の選択肢を出すところでしょ!
期待して損したわ」
「そうは言うけどな、お前俺が来なかったらホントにどうなってたか分かんねえぞ?」
「いや、もう既に攫われてるし、後は俺が選択肢を選ぶだけだったろ?」
「こればっかりはそこの合コン勘違い野郎が正しいぜ」
呆れた様子で話を続ける。
「うちは一度言った事には最後まで責任を持つし、道理が通れば筋を通す。」
「ただそれが通用しない奴なんかこっちの世界じゃ五万といる。昨日まで兄弟と思ってたやつに刃物向けられることもあれば、ずる賢い手を使って知らないうちに八方塞がりなんてのも珍しい話じゃない。」
「口約束なんざ、いざとなればお前相手なら何とでもなる。ただこいつがいれば話は別だ、こいつはうちの若いののガラを持ってて、私にはお前とゆう人質がいる。これでやっと対等に話が守られる場になる」
確かにその通りだ。しくじった。
命の危険がある状況や駆け引きの経験が少なさがどうしても出てしまう。
いつもそうだ。気持ちに対して己の技術が、力量が、思考が追いつかず大切な物をいつも取りこぼす。
「お前頭いいな、俺の仲間にならんか?」
「ならねえよ、もう少しマシな言い回しを覚えろ合コン野郎」
「じゃあこう言えばいいのか?主の御導きだ。同じ志を持つ者と共に、世界を正しく導く。これこそがあなたが救われる第一歩であり、あなたのカルマを浄化するだろう。」
「なんだおめぇ、いい歳して中二病か?」
嘲笑い、見下すように笑う。
「俺が中二病は否定しないが、この教えはお前らの所のだろ」
この言葉を聞いた途端に彼女の雰囲気が一気に重くなる。
まるで悪魔の代弁しゃでもあるかのような、さっきまでの明るくて迫力ある声でなくおぞましい地の底から聞こえるような、低い声だ。
「…どこまでお前は知っている?」
「せいぜいそこの掃除役で、仲のいい友達がいることくらいだ」
「なのにここに来たってこたぁ、事と次第によっては覚悟は出来てるな」
「何があっても俺の人生の物語の1ページに過ぎない。それで面白いものが見られるなら上々」
「狂ってるな、お前」
「お互い様だ」
2人の間で何か通じ合うものがあったのか、互いにふっと笑う。
「さて親友、結局お前はどっちを選ぶんだ?お前がどちらを選んでも物語は続く。」
「俺はこのロシアンルーレットに命をか切るほどの価値はないと思う。
仮にロシアンルーレットをしなかったとしても、新しいチャンスを作ってやれるが、もしこんな所で命を落とせばそこで物語はエンディングに入り、残るのは出来の悪いB級のようなもやもやだけだ」
「ロシアンルーレットの確率は6分の1。トリガーを回して自由な所で止めて撃鉄を起こせ」
集まる視線を感じる中、黒くてどっしりとしたそれを持ち上げる。
ゲームで沢山みていて、憧れがあったがいざ手にしてしまえばそれは銃でそれ以上でもなくそれ以下でもなかった。
作品で得た知識で弾を何回か送る。
まさか初めて銃を撃つのがこのような形になると思ってなかった。
カチッ、カチッと部品同士の音が響く。
「言いそびれてたんですが、その少女は悪い人じゃないと思います」
予想道理の装填が起こったことを確認し、合計で3回トリガーを引いた。
「悩んで覚悟を決めて、自分で選んだ物語として筋が通っていれば世界が間違っていると言っても僕はその人の味方になって必ず助けます」
撃鉄を起こし、こめかみに当ててトリガーに力を加えた。
本屋の可愛い彼女とアホの夏休み @Contract
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