The Encounter:3
「なんだ?!どう言うことだよ!」
アッシャーが鏡から飛び退き辺りを見回した。
『ここにいるぞ』
また声が響きアッシャーは叫びながら耳を塞いだ。
洗面所を飛び出すと机の上の書類を落としながらスマホを探し始める。
「頼むよこんなのおかしいだろ、クソ、どこ行ったんだよ!」
バッグをひっくり返し、ペンやファイルがバサバサと床の上に散らばる。最後にファイルの上にスマホが落ちると勢いよく引っ掴んだ。
『諦めろ、どうすることもできない』
悪魔が醜い笑い声を上げる。
「黙れ‼︎!」
アッシャーが叫んだ。手が震え数字が入力できない。
「どこに電話したら良いんだよ!」
アッシャーが泣きそうになる。
「病院だ、精神科にしよう。頭の中に声がするんだ、助けてくれ」
アッシャーが思いついたように番号を入れようとする。
『頭がおかしくなったわけではない。安心しろ、アッシャー』
また声がする。
「安心できるかよ!」
アッシャーが叫んだ。
「これも夢か?俺はまだ目が覚めてないのか?」
アッシャーが顔を右手で擦りながら歩き回る。
『こうして話していられるのも今のうちだ。私はすぐにお前を自分のものにできる』
笑い声が響く。
「ふざけるなよ!」
アッシャーが怒鳴った。パニックになっていて歩き回ることしかできない。
『私は悪魔だ。お前にできることは何もない』
アッシャーは動きを止めた。
「悪魔?」
聞き返す。
『お前は警官だろう?警察が無実の市民達を殺せば国中がパニックになるだろうな。警察の信用も揺らぐだろう』
悪魔が楽しげに笑う。アッシャーは無言で窓に歩み寄ると開けた。ベランダに出て手すりに手を置く。下の道路を見下ろした。
「お前に好きに使わせたりはしない」
アッシャーが決意を固めたような声を出す。
『無駄だぞ、アッシャー。お前がダメになったらまた別の人間を見つける』
悪魔が馬鹿にしたように笑った。アッシャーは悪態をつくと部屋に戻る。
「なら叔父に連絡しよう。そういうことなら得意だからな」
スマホの連絡先フォルダーを開くとHarperと入力した。
『そんな暇は無い。すぐに隣のやつを殺しに行くからな』
悪魔に言われ、アッシャーは慌ててネクタイを解いた。すぐ隣にあった電気スタンドに左手首を縛り付ける。
『それで私を止める気か?もっとましなものがあるはずだろう?』
悪魔が呆れたように言う。
「黙れ!急だからこんなもんしかないんだ」
アッシャーが大声をあげる。
『まあ良いだろう。私の力があればこんなもの引き裂いて電気も爆発させられる』
悪魔が言い、アッシャーは咄嗟に目を強く閉じ電気スタンドから顔を背けた。
暫くしてアッシャーが片目を開ける。
「何も起きてない?」
左手を見る。
『おかしいな。待て、もう一度やらせろ』
悪魔が言い、またアッシャーは顔を背けた。
「…何もないじゃないか!」
アッシャーが大声をあげた。
「何か起きると思ったよ。口だけのハッタリ野郎だったとはな」
ネクタイを解く。
『待て、何かおかしいんだ』
悪魔が焦る。
「早く叔父のところに行こう」
アッシャーが荷物をまとめ出した。
『話し合おう。ほら、取引はどうだ』
悪魔が必死に話しかける。アッシャーは無視して歩き出した。
『やめだ!こんな体、出てってやる!』
悪魔が叫んだ。
「好きにしてくれ」
ドアを開ける。
『おい、なんで出れない?!お前、私に何をした?!』
悪魔がパニックになったように叫んだ。
「んー、知らないな」
『おい、出せ!出してくれ‼︎』
悪魔が絶叫した。
蝋燭がゆらめき、ステンドグラスの聖母マリアとキリストから通った光が、鮮やかな影を暗い木の床に落としている。静寂が辺りに漂い、何人かの熱心な信者が長椅子に座り祈りを捧げている。
ブロンドヘアにアイスブルーの瞳の神父の服を着た男がゆっくりと祈りを捧げる信者の横を通り過ぎる。落ち着いた足取りで信者たちに優しげな微笑みをかけると奥の部屋へ入って行った。ドアが閉まり切ると気怠げな表情になり大股で部屋の奥に向かった。どっかりと椅子に座り込む。おもむろにポケットからタバコを取り出すと口に咥えた。カシュ、とライターの火を灯し、深呼吸をする。ギイ、とドアが軋んだ。
「ハーパー?」
反対側の入り口から年をとった神父が入ってくる。
「はあ?」
ハーパーがタバコを咥えたまま振り向いた。
「あなたもそろそろこういうことはやめませんか?あなたの気持ちはわかりますが、そんな事では何も変えられませんよ」
神父がハーパーの前に座る。この部屋はほとんどハーパー専用の部屋になっていた。
「俺の勝手だろ?悪霊とかは祓ってんだから良いじゃねーか」
ハーパーが煙を吐く。神父が深いため息をついた。ハーパーは全く気にしていない様子でブロンドの髪をかく。突然手を止めると目を見開いた。
「おい、凄い大物が来るかもしれないぜ」
ニヤリと笑いながら言う。ドアがノックされてからゆっくりと開いた。
「叔父さん、助けて欲しいんだ」
アッシャーの声がする。神父が眉を潜めた。
「は、俺の甥っ子に悪魔がついたみたいだぜ」
ハーパーが笑った。すぐに振り向く。
「おう、アッシャー。入れよ。何かしたのか?」
ハーパーが声をかけた。アッシャーがドアを大きく開け中を覗き込む。ハーパーはタバコの火を消すと立ち上がった。アッシャーは少し緊張した顔で入ってくる。ハーパーはアッシャーをハグした。
「よおー、俺の迷える仔羊ちゃん。俺のために大物を連れて来たのか?」
ハーパーがアッシャーの髪をぐしゃぐしゃと撫で回した。
「いや、俺にもよくわからない。ただ…」
アッシャーが言いかけるとハーパーがアッシャーの腕を掴んだ。黙りこくってじっと眺めている。真剣な目になるとアッシャーの身体を上から下まで見た。
「俺どうかしてるか?」
アッシャーが不安げに尋ねる。
「ああ。何があった?説明してくれ。誰にこんなことされたんだ?なんでこんなにボロボロなんだ?」
ハーパーの目に怒りが浮かんでいた。
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