第18話 私が何とかしてあげるから!

「お兄ちゃん? ……何してるの?」


 先ほど幼馴染の八木彩芽やぎ/あやめの家からの帰宅後。

 河合真幸かわい/まさきは自室にいた。

 今、鏡の前に立ち、恰好を付けたポーズをしていたのだ。


「な、なんでいきなり入ってくるんだよ!」


 真幸は突然のことに、驚きの声を出す。


「だってさ、さっきから夕食が出来たって呼びかけてたのに。全然一階に降りてこないんだもん」


 ジト目で語り掛けてくる妹の河合咲夜かわい/さくや

 妹は真幸の部屋の扉からこっそりと見ていたのである。


「それで、どこから見てたんだ?」

「最後の方だけだよ」

「そ、そうか。まあいいや、わかったから、今から行くよ」


 真幸は一番変な場面だけは見られていないと確証を得られ、ホッと胸を撫で下ろしていた。


「そうして。早くしてよね」


 咲夜は部屋の中に入ってくる。


「それで、鏡ばかり見てさ。もしや、明日の準備とか?」

「そうだよ。遊園地に行くんだよ」

「頑張って来なよ。まあ、何とかなるだろうけどね」

「ありがと」

「というか、お兄ちゃんって、その服装で行こうとしてたの?」


 咲夜は、真幸がクローゼットから出している服を見て、唸るように考え込んで見ていた。


「ちょっとダサい気がするんだけど」


 咲夜から辛辣なセリフが飛んでくる。


「……そ、そうかな? 個人的には良い感じだと思ったんだけどなぁ」


 真幸は、今手にしている白色のパーカーを見て少し考え込む。


「そうだって。全身白色の服装はよくないじゃない?」

「んー、そ、そうか。だ、だよな……」


 真幸は唸り。確かにと、自分でも客観的に考えて妹の意見を受け入れるのだった。


「じゃあさ、逆に何をすればいい?」

「そうだねぇ、うーん……」


 妹が唸っている。


 刹那、お腹の音が聞こえた。


「あッ、ちょっとお腹減って来たから。夕食が終わってから一緒に考えよ」


 咲夜は咄嗟に、お腹の部分を両手で隠していた。


「それもそうだな」

「早くしないと、冷めちゃうしね」


 咲夜は頬をちょっとばかし赤く染め、真幸の部屋から出て行くのだった。


 真幸は手にしている服を一度クローゼットに入れ直し、電気を消したのち、自室を後にするのだった。




「んー、やっぱり、このコロッケ最高ね。だよね、お兄ちゃん」

「そうだな」


 金曜日の夕食は、リビングにて、隣同士の席で取っているのだ。


 テーブル上に置かれたコロッケ。それにご飯と味噌汁。それから刻まれたキャベツ。

 比較的あっさりとした夕食風景である。


「このコロッケね、結構安くて。一個、何円だったと思う?」


 咲夜からお題を出される。


「んー、百円とか?」

「違うんだよねぇ、それがね、一個七〇円だったの!」


 咲夜は目を輝かせ、ドヤッとした表情を見せていた。


「へえ、今のご時世にしては、頑張ってる金額だな」


 真幸はコロッケを口にしながら咀嚼し、感心するように頷いていた。

 そのコロッケの味を噛みしめ、堪能していたのだ。

 今食べているコロッケは牛肉コロッケらしい。


「お兄ちゃんもそうでしょ」

「いや、咲夜を褒めてるわけじゃないけどな」

「でもさ、この激安コロッケを見つけてきた私を褒めてよ」

「凄いなー」

「なんか、棒読みみたいな感じなんだけど」


 隣の席に座っている真幸から頭を撫でられている咲夜は、頬を膨らましているものの、意外にも頬を紅潮させて嬉しそうな笑みを零していたのだ。


「まあ、いいんだけど。あ、そうだ。お父さんとお母さんは今日帰ってくるんだって。でも、夜遅くなるって」


 真幸が妹の頭から手を離すと、そんな事を言っていた。


「話は変わるんだけど。夕食を食べ終わったら、明日の準備をしないとね」


 妹は一旦、食事をする手を止めて言う。


「そうだな。まあ、俺一人だとやっぱ服選びのセンスが絶望的にないし。咲夜がいて助かったよ」

「別に、そんな事はないよ。でもまあ、私がいないと、全身白一色の服のまま外出してたんだよね」


 咲夜は真幸から褒められ照れながらも、変な服だと絶対に許さないんだからねといった口調で言っていたのだ。


「でも、出来る限りはお兄ちゃんが着たい服を尊重するけどね。あの服装はやっぱないよね」

「けどさ、白色の方が明るい感じでいいかなって」

「それでも変だよ。もうちょっとお洒落な感じじゃないと。美蘭さんも普段から派手な格好してる事が多いでしょ」

「確かに」


 そういえば、明日、美蘭はどんな服装でやってくるのだろうか。

 そんな妄想を膨らませてしまう。


「でもさ、私が何とかしてあげるから。期待しておいてね!」


 自信ありげな声で咲夜が言う。


「そういや、咲夜って、ファッションに強いんだっけ?」

「一応、ゲームとかでね」

「ゲームって。もしや、着せ替えアイドル的なゲームか?」


 着せ替えアイドルというのは、小中学生くらいの子をターゲットにした筐体ゲームである。

 基本的にゲーセンにしかないが、咲夜の話によれば、家庭用ゲームでも発売されているらしく。アイドルカード的なのを用いて遊ぶことになっている。


「そうだよ」

「それって、現実とは全然違うんじゃ……」

「違うくはないよ。意外とね。今のゲームは本格的なんだからね」

「そうなのか?」

「そうだよ。それに、去年の中学の文化祭だって、私が衣装を決めてたんだからね。企画したり、作ったり」

「そんなことまで出来ていたのか?」

「そうだよ。私をいつまでも子供のままだと思ってちゃ困るんだけどね」


 咲夜は意外にも大人染みていた。


「それで、お兄ちゃんも着せ替えアイドルのゲームをしてみなよ。私のゲームを貸すから。その方がファッションレベルが上がるんじゃない?」

「いいよ。遠慮しておく」

「そんなこと言って、このままだとお兄ちゃんのためにならないからね。今後のためにもね! だから、後でお兄ちゃんにはゲームをやらせますからね!」


 妹は本気な瞳をしている。


 あまり、女の子寄りのゲームをやった事のない真幸からしたら、大丈夫なのかと一抹の不安を抱え始めるのだった。

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