第16話 真幸はどっちがいい?
街中のホテルの個室。そこで美蘭と一緒に過ごしたことが印象的で、今日の授業中は集中力が散漫になっていたのだ。
だが、学校での出来事は何とか乗り越えられ、後は帰宅するだけだった。
それにしても昨日は少々遅めの帰宅だった事もあって、少々眠かったのだ。
軽くあくびをして通学用のリュックに課題を詰める。
教室内からクラスメイトらが出て行く中、真幸は席から立ち上がり、通学用のリュックを背負う。
すると、背後から肩を軽く叩かれ声をかけられたのである。
そこには普段通りに露出度の高い服装をした、
一瞬、彼女のはだけた姿が脳裏をよぎる。そして、キスした事を思い出してしまい、真幸は緊張を和らぐために指先で頬を触っていた。
「きょ、今日はどうするの?」
真幸の方から美蘭に聞こえる程度の声で話す。
「それなんだけどさ、佳純と帰ることになって」
「え、そうなのか?」
教室の入り口付近には、亀井佳純がいた。
彼女は二人がいる方へ向かって手を振っていたのだ。
「でも、一緒に帰ればいいんじゃ?」
「そうなんだけど、まあ、こっちにも色々あってさ。そういうことで、それと明日はよろしくね」
「あ、ああ。じゃあ、そういう事なら。わかった。またあとで」
真幸とのやり取りを終えた美蘭は、佳純のところへ向かい、そのまま二人で教室を後にして行ったのだ。
今日は一人で帰るか。
トボトボと、教室から出る真幸。
「真幸、今日は一人?」
駆け寄って来たのは、
「一人で帰るなら、一緒に帰ろ!」
彩芽から少々強引な形で誘われ、一緒に帰宅する事となったのだ。
昇降口で外履きに変え、学校を後にする。
「私ね、自宅でお菓子を作るつもりなんだけど、私の家に寄って行かない?」
「お菓子? クッキーとか?」
「そうそう。そういう感じのお菓子だよ」
「だったら、寄って行くかな」
「じゃ、決まりね」
通学路を歩いていると、真幸の隣にいる彩芽はワクワクした表情で軽くスキップを踏んだ歩き方になっていた。
彩芽はお菓子を作るのが好きで昔からよく作っていた事を思い出す。
動物系のクッキーやキャラクターを模したクッキーなどを作る事があり、物凄く器用っだったと思う。
「あのね、クッキーを作る時にトッピング程度にチョコがいるんだけど。ここの通りにコンビニがあったでしょ。そこによってもいいかな?」
彩芽は真幸の反応を伺うような視線を向けており、真幸が頷くと、その後で目的地となるコンビニへ向かって、通学路にいる彼女は少し早歩きになる。
コンビニ店内に入ると、適度な温度に調整されている事もあって居心地の良さを感じられる。
二人は入店するなり、お菓子コーナーのところまで向かう。
「えっとね、何がいいかなぁ。真幸は好きなチョコのタイプってある? 最初ね、板チョコでもいいかなぁって思ってたんだけど。こっちのクランチでもいいかなって」
彩芽は二つのチョコを手にしながら質問してくる。
右手には、昔ながら板チョコ。
左手には、クランチ系のチョコだった。
食べ応えがあるのはクランチチョコの方だが、材料として扱うなら板チョコの方がいいと思う。
「じゃ、こっちかな」
真幸は指さす。
「板チョコの方ね」
そう言い、彩芽は左手に持っていたクランチチョコを棚に戻そうとしていたのだ。
「ちょっと待って。そのクランチの方は普通に食べる用で購入しない? 俺がその分の値段は払うから」
「んー、じゃあ、私がまとめて購入するから、後でお金をくれればいいよ」
「わかった。そういうことで」
二人の間で交渉し、再びコンビニ店内を歩き出す。
「飲み物は何がいい? 今ね、家に飲み物を切らしてるんだよねー」
「じゃあ、コーラがいいのかな?」
二人はペットボトルが置かれているガラスケースのような棚――ウォークの前にいた。
「んー、どうだろうね。今はそういう気分じゃないかも」
「だったら……」
真幸は悩み込んだ後、一つの結論に辿り着く。
「オレンジジュースはどうかな?」
「うん、それの方がいいかな」
彩芽がコーラを飲みたくない時は、オレンジジュースを飲みたがっている前兆である。
今まで幼馴染として彩芽の事を見てきたが、何となく察する事が出来るのだ。
真幸は棚からジュースを取り出す。
二人で飲むなら一ℓ分の量が必要だと思う。
真幸がペットボトルを持ち、他に購入するモノがなかった事で二人はコンビニのレジまで移動するのだった。
「真幸、ソファに座って待っててね」
幼馴染の家である八木家に入ると、彩芽の方から言われた。
久しぶりに彩芽の家に来たのだが、あまり変わっていない様子だ。
久々と言っても、半年ぶりくらいだと思う。
「でも、暇だし、俺も何か手伝うよ」
「えッ、いいよ。いいから、ソファに座ってて」
デフォルメ化されたネコイラストがプリントされたエプロン姿の彩芽から強引にソファに座るように強要されたのである。
「そんなにダメなの?」
「そ、そうなの! だから、真幸は一人でリビングで待ってて。絶対だからね!」
なぜか、幼馴染から念をされる感じに、強めの口調で言われていたのだ。
「色々あるし……」
「ん? なんか言った?」
真幸は疑問に想い、聞き返す。
「んん、なんでもないの。そういうことだから……というか、お菓子くらい一人でも出来るし、気長に待っててね」
彩芽は焦った感じにエプロンの紐を再度締め直すと、駆け足でリビングからキッチンへと向かう。
真幸は一人でソファに座りながら、休日のスケジュールについて深く考え始めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます