第15話 二人は部屋で――
「ねえ、ここでしちゃう?」
二人がいる、この部屋は薄暗かった。
しかも二人きりという事情も相まって、変に意識してしまいそうな雰囲気が、辺りには漂っていたのだ。
「でも、このタイミングを逃したらよくないかもよ」
さらに追撃を仕掛けてくるかのように、右隣にいる
今まさに二人は、室内に設置された二人用のベッドの端に座っているのだ。
この場所はいわゆるホテルである。
如何わしい感じのラブホではないものの。美蘭が話す言葉一つ一つが、この環境も影響し、意味深に聞こえてしまい、真幸の心臓の鼓動は急激に加速しつつあった。
「で、でもさ、今は休憩するために利用しているだけでしょ」
「そうだけど。二人きりになったら、そういう雰囲気になるじゃん」
「そ、そうかな?」
「そうだって」
美蘭は自然体な感じの笑顔を見せてくれる。
今いるホテルには、休憩プランという扱いで一時間ほど滞在するつもりだ。
一時間も利用できるならば、何もしないというのも変な話ではある。
そんな中、美蘭は学生服であるブレザーを脱ぎ始めるのだ。
美蘭は、ブレザーの下にワイシャツを着ている。
首元のネクタイは元から適当に身につけており、その上、ワイシャツのボタンも上から二番目のところまで外している感じだ。
学校指定のブレザーを着ている状態でも、胸元が大きく見える状況であり。ブレザーを脱ぐと、なおさら刺激的な格好に見えてしまうのだ。
「ど、どうして急に脱いだの?」
「ちょっと暑かったからよ」
美蘭はジト目になり、真幸の近くまで体の距離を縮めると、もっと見たいでしょ的な意味ありげな質問をしてくる。
「い、いいよ……」
「本当に?」
隣にいる美蘭は自身のワイシャツに手をかけていた。
これ以上脱がれると何かと困る。
真幸的にも、本当は見たいという気持ちはあるものの、むしろ、こんな密室な環境だからこそ精神を宥めた方がいいに決まっている。
そう感じ、真幸は感情をコントロールしようとする。
「でもさ、真幸になら見せてもいいんだけどね♡」
美蘭はそのつもりで誘惑しているらしい。
「一応聞くけど、美蘭って昔誰かと付き合ってたんでしょ」
「え? なんでそれ知ってるの? 誰かから聞いた感じ?」
美蘭は目を丸くし、それから現実を受け入れるように冷静な表情になっていた。
「う、うん……たまたま、そういう話を耳にして」
誰から聞いたとかはハッキリとは言わず、濁しておいたのだ。
「そうだよ。付き合ってはいたけど。でもさ、そいつとは全然付き合ってないからね。もう別れてるし。もしかして疑ってる?」
「そうじゃないけど……美蘭が、その人と付き合っている時、大変な思いを経験したとかで。それが、ちょっと気になってて」
「真幸って、結構詳しいところまで知ってるのね。もしや、佳純から聞いた感じ?」
「え?」
「……その反応、図星ってところね」
美蘭は真幸の顔を見つめている。
その後で、隠しても無駄かといった感じに彼女はため息をはいていたのだ。
「それについて言うとね。昔っていうか。中学三年くらいの頃だったんだけどね。その時にその人とは付き合ってて。でも、色々なことがあって別れたの。でも、その人は別の高校に通ってるんだけど。私は、そういうことがあって隣街の高校に通ってるわけなんだけどね」
隣にいる彼女が重い口を開き始める。
「隣街っていうのは。引っ越ししてきたって感じなの?」
「そういうこと。まあ、両親の仕事の都合もあったんだけどね。昔住んでいた場所からでも通えない事はないんだけど」
美蘭は、事の経緯を淡々と伝えてくれていた。
「今は、その人と出会う事もないし。気楽って感じ」
「そ、そうなんだ。じゃあ、良かったよ。美蘭が高校まで辛い思いをしなくて」
美蘭に対しては、見た目的に明るそうな印象しかなかった。けれど、人には見えないところで、これまで色々と苦労してきたのだと思う。
今の彼女の表情は少し悲しそうで、過去の事について話している為か、声のトーンも落ちついている感じだった。
「真幸には隠してる感じになったけど。私、真幸が初めての恋人というわけじゃないの」
「いいよ、そんなこと」
真幸は美蘭に心配をかけさせないように言う。
そもそも、美蘭みたいな子に恋人が出来ないはずがない。
前々から告白されることが多いと聞いていた。
二番目の恋人だったとしても、人生で恋人すらできた事のない真幸からすれば、恋人が出来ただけでもマシだと感じるほどだ。
「ありがとね。あのね……だからね……真幸とは、昔の事を忘れらせるほどの関係になりたいんだけど」
「⁉ そ、それはどういう意味で」
「言葉の意味だけど」
「言葉の……?」
「うん。というか、昔付き合っていた相手とはエッチな事はしてないし。それに関しては、真幸が始めって事になるけどね」
次第に美蘭との距離がなくなりつつあったのだ。
真幸に向けられていた美蘭の視線から女の子らしさを感じる。
顔との距離が近く、キスしてもおかしくない状況であった。
「ここまで来たら、もうしちゃった方がいいんじゃない?」
美蘭から甘えた声が聞こえ、その口調に真幸の脳内は混乱してしまう。
そんな中、気づいた時には、彼女の口元が真幸の唇に触れていたのである。
こ、これは――
いわゆるキスのような状態であり、真幸は頬を真っ赤にしたまま硬直していた。
「どうだったかな?」
口元から顔を離した美蘭は、活発的で明るい感じの声質ではなく、一人の女の子のような話し方をしてくる。
真幸からしたら気恥ずかしいシチュエーションであり、言葉を失いつつも軽く頷いて返答を返す。
胸の内が火照っている二人は、後三〇分ほど、その部屋で過ごす事となったのだ。
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