第14話 彼女には、いつもの服装が一番似合っている

 デパ地下一階の飲食店にいる河合真幸かわい/まさきと、亀井佳純かめい/かすみ

 現在、二人は洋食レストランの店内にいて、向き合うように席に座り、メニュー表を見ながら何を食べようかと悩んでいる最中であった。


「これなんかもよくない?」


 佳純はメニュー表の写真のところを指さしながら言う。

 彼女が示しているのは、大盛りのフライドポテトだった。


 二人でも食べきれるかどうか怪しい。

 写真からして、迫力満点である。


「そ、それにするの? 大丈夫?」

「大丈夫よ。私は、こう見えて結構食べるのよ」

「へ、へえ、意外だね」

「でしょ」


 佳純は他の商品も頼もうとしている様子。

 大食いという体質もあると思われるが、普段から部活をしている事もあって、お腹が減っているのだろうか。


 そんな事を思いながら、真幸も自分が食べたいと思う商品を選んでいたのだ。


 持ち帰りの時とは違い、お店で食べる場合は幅広く注文できるらしい。

 フライドチキンやフライドポテトの他に、サンドイッチ系やケーキ系も取り扱っているとの事。

 しかし、逆に選べる範囲が広いと、何を選べばいいのか迷ってしまうという最大の欠点があった。


 それから三分ほど佳純と会話し、大方注文する内容が固まりつつあった。

 そんな中、店内は夜になるにつれてお客の数もチラホラと増え始めていたのだ。

 少々騒がしくなっていく。


 他のお客への接客もしないといけない事から、店内でバイトをしている美蘭の動きも早くなっていく。


 ウェイトレス姿の美蘭は、どんな忙しくても持ち前の明るさで、笑顔を見せながら現状を乗り越えていたのだ。


「いらっしゃいませー、二名様ですね。では、こちらのお席が空いておりますので、こちらにどうぞー」


 彼女の声は店内に響いていた。


「ねえ、そろそろ注文する?」


 真幸が佳純に問う。


「んー、忙しそうよね」


 佳純も現状を理解しているようで、少々唸った声を出していた。


「そうなんだよね。どうする?」

「じゃあ、注文内容をメモ用紙に書いて、それを渡す形がいいかも」


 佳純は、普段から学校で使っているルーズリーフを通学用のバッグから取り出し、それに書きだしていた。

 その後で、彼女はテーブル近くを通りかかった美蘭に渡していたのである。






「ご注文した内容は以上でよろしいでしょうか?」


 注文を終え、早十五分ほどで二人がいるテーブル上には、大盛りフライドポテトなどの皿が置かれたのだ。


 佳純はその他に、大きめのハンバーガーを――

 真幸は、ブルーベリーがのったチーズケーキを注文していたのである。


「ごゆっくりどうぞ」


 美蘭は丁寧に頭を下げていた。


「さっきまで混んでたのにね」

「そうね」


 佳純の問いかけに、美蘭は店内を見渡す。

 先ほどと比べ、大幅に店内が落ち着いていたのだ。


「それと、これは私からのお礼だから」


 二人は美蘭から袋に入ったクッキーのお菓子を貰う。


「いいの、これ」

「いいよ。忙しい時に私のことをちゃんと配慮してくれたし。そのお礼だと思って受け取っって。真幸もね」


 真幸は彼女からウインクされた。




「もうお腹いっぱい。これで今日の夜はもう十分そうね」


 大盛りのフライドポテトに、さらには特大のハンバーガーまで食していたのだ。


「それだと、家での夕食を食べられないんじゃない?」

「いいのよ。今日は外で食べてきなって親から言われてたからね。でも、こんなに食べたし、帰りは軽くランニングして帰らないと。じゃないと太っちゃうしね」


 佳純は自身のお腹を触っていた。


「あ、もうこんな時間? そろそろ帰んないと。私は帰るけど、後は美蘭の事を任せたからね」


 佳純は自分が食べた分のお代だけテーブルの上に置くと、洋食レストランの出入り口付近にいた美蘭に支払い方法を伝えたのち帰って行ったのである。


 スマホ画面を確認してみると、時刻はあともう少しで夜の八時になりそうな頃合いだった。


「真幸。あと少しで営業が終わるし、一緒に帰る?」


 テーブル前までやって来た美蘭は誘うような視線を向けてくる。


「そうだね。じゃあ、デパートの入り口辺りで待っているよ」


 真幸は会計を済ませると、洋食レストランを後にするのだった。




「ちゃんと待っててくれたんだね!」


 駆け足でやって来た白石美蘭しらいし/みらは、店内時に着用していたウェイトレス衣装ではなく、普通に学生服だった。

 正装している姿よりも、いつも通りに露出度の高い制服の着こなし方の方が、彼女らしさを感じるから不思議だ。


「じゃあ、帰ろっか」


 彼女は突然、真幸の右腕に抱きついてきたのだ。


「ど、どうしたの急に?」

「いいじゃん。今はさ」

「いいんだけど……」

「もしかして、恥ずかしいとか?」

「そういうわけじゃ……」


 今まさに美蘭が抱きついている事で、彼女の豊満な胸が接触しているのだ。


「ん? なに?」


 美蘭は首を傾げてくる。


「な、なんでもない。なんでもないから」


 真幸は、彼女から向けられている愛嬌のある表情を前に、声が裏返っていたのだ。

 そんな中、変なテンションに陥っていた真幸は転びそうになっていたのである。


 前かがみになった瞬間に、彼女が腕を引っ張ってくれた事で、転ばずには済んだものの、現在、真幸の右腕は彼女の谷間に挟まれていた。


 多分、高校生にしてかなりデカい方だと思う。

 Cとかではなく、Fとかそのくらいだと、脳裏に光が走るように察したのである。


「真幸って、これから時間があるなら、ちょっと寄りたいところがあるんだけどいい?」


 なぜか、彼女は普段とは違い、小声で話しかけてくる。

 耳元で囁くように誘われ、なおさら彼女の言葉を意識してしまいそうになるのだ。


 その日、真幸は美蘭と共に夜の街に消えていく事になった。

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