第13話 昔ね、美蘭には色々あって…
本当の事を言えばよかったのか?
いや、言わなくて正解だったんだよな。
放課後になっても真幸は、朝の登校時間の事を振り返っていたのだ。
幼馴染の
美蘭の方は今日もバイトのようで、放課後のHRが終わった瞬間に教室から出て行ったのである。
今日は一人で帰るか。
真幸は普段から一人で行動する事が多く、こんな日があってもいいかと思いながら、学校を後に通学路を歩き始める。
すると、少し歩いたところで、見覚えのある後ろ姿が見えた。
「ん? 河合さん?」
通学路の通りにある信号機のところに佇むのは、美蘭の友人である
「河合さん、今から帰りとか?」
「そうだけど」
「じゃ、一緒に帰る? 私さ、今日の部活が急になくなって、暇してたところだったんだよね」
佳純から誘われ、何となく成り行きで行動を共にする事にしたのであった。
佳純と二人きりでは、あまり会話した事はない。
この前、昼食を共にした際に、何となく会話した程度である。
以前の佳純は、美蘭と関わっている真幸を見て、抵抗感のある態度を見せていたのだが、今はそこまで敵意ある目を向けてくる事はなくなっていた。
意外と自然な流れで佳純とは会話が出来ている感じだ。
「美蘭とはどんな感じ?」
二人は信号機が青になった事を確認しながら通学路を歩き始めると、彼女の方から話題を振って来たのだ。
「普通だと思う」
何かのデジャブなのだろうか。
この頃、こんな質問を、よくされているような気がする。
「普通ってどういう意味?」
「付き合っている間柄的に普通って感じ。一応言っておくけど、美蘭には変な事をしてないよ」
「なんで、そんなに焦った口調になってるの?」
佳純から少し笑われてしまっていたのだ。
「でも、美蘭に対して変な事をしていたら、どうなるかわかる?」
「え、う、うん……」
隣を歩いている佳純からジーッとした視線を向けられ、真幸は引き攣った表情になってしまう。
むしろ美蘭の方から、そのような誘いをされた事はある。が、実際にはそのような事態には陥ってはおらず、真幸はそれに関しては大丈夫だからと返答しておいた。
「まあ、いいんだけど。美蘭って昔、大変なことがあったから」
通学路を歩いている際、佳純から、そんなセリフが口から漏れていたのだ。
「大変なこと?」
「そう。美蘭は昔ね、別の人と少しの間だけ付き合っていたことがあって、それで色々あったの」
確かこの前、クラスメイトの陽キャが、そんな事を言ってたな。
今は別の高校に通っている人と、昔付き合っていたって。
真幸は振り返りながら、隣にいる佳純の意見を聞いていた。
「その話はある程度知ってるけど」
真幸は相槌を打ちながら言う。
「でも、その付き合っていた相手から嫌がらせを受けたりとかして。そういう事があってね、私、美蘭と誰かを付き合わせたくなかったのよ。でも、河合くんなら問題ないよね? ね?」
彼女からまじまじと見つめられていた。
「お、俺はそんな危ない事はしないから」
「だよね。河合くんなら、そんな悪い事もしないよね?」
彼女から念を押されていた。
「まあ、美蘭も本心で問題ないって言ってくるくらいだし。大丈夫かもねー」
佳純はホッと胸を撫で下ろしつつ、真幸の事を横目で見つめてくる。
「まあ、こんな暗い話は終わりってことで。というか、河合くんって、これから暇だったりする?」
「一応、暇だけど。今日は特にやる事もなかったし」
「じゃ、美蘭のバイト先に行く?」
街中近くの交差点に差し掛かった際、彼女から提案された。
「バイト先? 亀井さんも知ってるの?」
「知ってるっていうか、以前教えてもらったんだよね。え? 河合くんは知ってるの? 美蘭のバイト先⁉」
彼女から驚かれていた。
「知ってるも何も昨日、バイトしている美蘭とバッタリ会って」
「そ、そうなんだ。知ってたんだね。じゃ、問題なさそうかも。河合くん、そこに行かない? ちょっとお腹が減っていたしね。でも、美蘭のバイト先は他の人には内緒ね?」
「え?」
「だって、そんな事を皆に言いふらしたら、絶対皆も行くでしょ」
「確かに」
真幸は納得した感じに頷いていた。
二人は街中まで徒歩で移動し、昨日、真幸が立ち寄った同様のデパートの前に到着する。
店内に入るなり、エスカレーターを用いてデパート一階の下であるエリアに向かう。
いわゆるデパ地下と呼ばれる場所であり、そこ周辺を歩いて、美蘭のバイト先である洋食レストランへと歩く。
「ここよ。こっちが飲食可能エリアの入り口なの」
昨日、真幸が会計したところがお持ち帰り用エリアのようだ。
洋食レストランの飲食スペースへと向かうと、出迎えてくれたのは、意外にも
昨日、身につけていた作業用エプロンとは違い、今は白色のウェイトレス衣装を身に纏っており、メイドのような可愛らしい雰囲気を醸し出しているのだ。
「なんで二人が⁉」
「ちょっと来たくなっちゃって」
佳純はピースサインを見せ、フレンドリーに話しかけていた。
「というか、今日はあまり来てほしくなったんだけど」
美蘭はメイドらしい衣装を身に纏っている為か、物凄く恥じらいを抱いているようだった。
頬を真っ赤に染めており、陽キャらしかぬ感じに少々おどおどしていたのだ。
でも、そんな彼女の表情も、真幸からしたら好印象だった。
別に悪くはなく、元からスタイルも良い事から、美蘭の今の姿は魅力的に、真幸の瞳には映っていたのだ。
「ま、まあ、いいわ。こっちに来て。今から席を案内するから」
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