第13話 好きだ

「この子めっちゃ可愛いよね!」

「だろ?照れ顔を隠してるつもりが実は隠れてなかったということに気づいた瞬間…!」


 落ち着きを保つことが原則である図書室では、司書さんと教師がいなければ声を上げてもどうってことは無い。普通の会話の声で話しているし、話が盛り上がれば声を上げて笑うこともあった。

 夢の詰まった図書室だった。あの日出会ってから僕は、部活終わりに図書室に寄るようになっていた。30分に満たない図書室での時間は、僕にとって深い記憶になっている。


「そろそろ帰ろうか」


 図書室の担当教師が来る前に美夢に声をかけた。読みたい本があるからもう少し…と言っていたが、それは借りて帰ってから読むことに。


「ねっ、今夜は暇?」


 日が沈みかけた学校の帰り道、美夢が坂道を登りきった時、こっちを振り向いた。少し、笑っているのだろうか。

「暇だよ。」

「じゃあ、電話しよ?」


 出会ってから何度か電話をするようになった。電話でラノベの感想会をすることもあったし、勉強しながら電話することもあった。


 家が隣だと気づいてから僕達の関係は一変した。元々は高嶺の花だった美夢の存在が、図書室で少し話す友人に。そして、家が隣だということを知ってからはもっと親しい仲になっていた。

「いらっしゃい」


 部屋に上げるのも特に躊躇なく上げられた。女の子として意識していないとかそういう話じゃなくて。小説を書いていることを美夢に伝えたらなんか食いついてきたから。部屋にあげてパソコンの画面を見せたり、本棚から溢れるほどのラノベを漁っていただけだった。

「これ去年の限定特典のグッズじゃん!」


 好きに、なっていたのかもしれない。よくあるラブコメ漫画とはひと味違うかもしれないけど。部活をきっかけに恋が展開していくことも無くて、道でぶつかるラブコメ王道ルートを通る訳でも無い。たまたまいた人を興味本位で覗いていただけだ。理想の恋愛を作り上げる必要は無いと思う。出会いがどうであれ、今彼女が好きなのならそれでいい。


 背が低いくせに本棚の高い方へ手を伸ばす美夢も、物語にケチをつけて半ギレする美夢も。そして、僕が寝落ちた時に傍にいてくれる美夢も。




 気がつけば左手にコントローラーを握りながらソファで寝ていた。少し寝不足だったからだろう。

「おはよー」


 目を開けた。真っ直ぐと見つめてくるその大きな瞳が僕の瞳に映る。美夢の髪が濡れている。風呂上がりだろうか。目を擦りながらもう一度、目を見開いた。

「どうしたの、結構寝てたよ?」


 夢を、見ていたからだろうか。美夢がいつもより可愛く見える気がする。出会った頃を思い出す。忘れていた訳では無かったはずだ。しかし、夢と現実が掛け合わせられたからだろう。美夢に向けていたその感情をを久しぶりに思い返す。


「好きだ」


 無意識、だったか。気づけばその言葉が口から出ていた。あの時からずっと好きだった。ずっと、ずっと。

 この気持ちを忘れていた訳では無かったが、この感情が自分の書いている物語のヒロインに向けられていた。だから、忘れていたと錯覚していただけで僕は今でも…。


「なに、アニメの夢?オタク悪化してんじゃん怖いよ?」


 無意識で発せられたその言葉は美夢には届かなかった。照れる素振りもなく、気にする素振りも全くなかった。意図して発した言葉では無かったが、その言葉に何も反応しないことに対して少しモヤモヤする。

 しかも、アニメの夢って決めつけられるって。僕もだいぶオタクなんだな…。

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天才小説家と不動のメインヒロイン はると @haruto_hrt

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