第10話 修羅場?

 「誰ですか?」

 見覚えのない女性にそう問いかける。

「あなたこそ、遥高くんの同級生…?」


 そうですけど、としか答えられなかった。何せ、私は嫌な想像をしてしまったからだ。遥高がこの美人さんと、どんな関係で、どんなことをしてるのか。そんな良くないことを考えてしまっていた。

「そうなの、とりあえず遥高くん呼んでくれるかな?少し話したいことがあるから」

「わ、分かりました。」


 驚きを隠しきれずに遥高に声をかける。彼女が呼んでいることを伝えずに、あの人誰?と、説明もなしにそう問うてしまった。

「え、誰だよ。」


 遥高はコントローラーを手放して、急いで玄関へ走る。遥高のその驚いた顔に、やっぱり私は良くない想像をしてしまった…。やっぱり2人はなにか秘密の関係だったりして…。


「なんで僕の家知ってるんですか三島さん」

「なんでって、知ってるから知ってるのよ」


 その呆れた態度を見て、私の想像が的外れのものだったと知る。

「まぁ、上がってください」

「上げちゃうのこの人!?」


 いきなりすぎて声を上げてしまうも、遥高は冷静であった。

「だって、三島さんが家に来るなんてよっぽどの事なんだろうし。ここで話すのもなんだろうから」


 お邪魔します、と言って三島さんはヒールを脱いだ。



  ‪✕‬‪✕‬‪‪‪✕‬


 それから私は洗い物をしながら2人の話を聞いていた。少しすれば、彼女が遥高のん"ん"ッッな関係では無いことはすぐにわかった。原稿、推敲、修正。そんな言葉が出てきたところで、私はようやく彼女が遥高の担当編集者であることに気づく。


「なんなのこの原稿は?」


 真面目な視線で僕を睨みつける。キッチンの方からも視線を感じるので、自分の家で2人の女性から睨みつけられてるということだ。今まで自分の家で女性2人に睨まれる悪役キャラを体験するなんて、想像しただろうか。


「なんなのって、新作ですけど」

「前回と書き方、全く違うじゃない!」

正直、そんなに怒鳴られてもって感じだ。僕はあなたに合わせただけなのに。違うのは当然だ。そもそもジャンルが以前とは異なるっているし、世界観も前作よりも壮大にした。キャラ自体の設定も以前よりも深堀して設定している。そりゃ、全く違うと言われてもそうとしか言えない。


 編集部は前回と同じくらいの量の修正が入ることを予想して人員を僕の方に多く回したと言う。要するに、僕の作品が完璧すぎて、修正する場所がほとんど無く、人員が余ってしまったらしい。


「そんなこと言われてもですね」

「まさかゴーストライターとか雇ってないでしょうね」


 予想外の質問に固まるも、実際は的外れの質問だった。前回の経験を活かして書き方を変えただけだと言うのに。

「冗談にしては笑えますね。実際は書き方を変えて、もっと工夫してみただけです。三島さんに楽をさせてあげたかったのと、超売れて、超面白い作品を作る。そう意識して書いただけですよ。」


 驚愕した顔は数秒間固まっていた。それが天才だということを気付かされた。自分の面白いと思う作品を書くだけじゃない。周りを、世界を見ているのだ。それを成し遂げる彼は、天才としか言えない。


 (やはり遥高くんは天才…この調子ならイラストのことを考えたとしても、8月には出版できるはず…。)


 編集長のことも考えて、反対されるかとも思ったが、ここで断言することにした。

 普段よりキリッとした口調でそう告げる。


「この新作は8月に出版します。そのつもりで」


 上司との確認も取らず、僕の作品を見て独断で完璧だと決めつけた彼女は、イラストレーターとの連絡もせず、やるべき作業を全部すっ飛ばして、その答えを導き出してしまった。

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