第7話 世間は許してくれなかった
結論、ごめんで世間は許してくれなかった。
「なんでお前が吉本と一緒に登校してきてるんだよ!」
美夢と昼食を共にしている最中、食堂は大きくざわめいた。怒鳴り上げる彼は僕に嫉妬している。ろくに運動も出来なく、勉強もできない凡人のようなな僕を、彼は嫌っているのだ。彼の好きな人は、僕に奪われたのだ。その怒りで、場所も考えず、空気も読まずに怒鳴ってしまったのだろう。
この言葉が彼を気づつけるという事は直ぐに分かる。しかし、僕は言葉を発するのを止めることはなかった。
「君に何を言われようとも、僕は美夢と一緒に登校するし、昼食を共にする。それが嫌ならひとりで喚いてればいいんじゃないか?」
空気を読まない彼と、空気を読んで箸を進める美夢。そして、その輪をさらに乱していたのは僕だった。最悪な空気が食堂に行き渡るのを気にする人もいれば、気付かないふりをする人もいる。美夢は後者だった。いや、お前はなんか言わないといけんだろ。
目で合図するも、「お前が始めたことだろ。自分で何とかしろ」そう睨みつけられて終わる。
これもひとつの取材であった。自分とは異なる考え方の人間だから、彼のようなモブキャラは書くのが大変難しい。いい機会だから、そのモブキャラ立場での振る舞いを存分に見せて欲しい。
「君、名前は?」
黙り続けていた美夢が彼に尋ねる。
「お、俺は宮崎透だ!お前を惚れさせるためにここにいる!」
なんて、なんてイタいキャラなのだろうか。堂々と恥じらいなくそんな発言ができるとは、僕のモブキャラ研究もまだまだ奥が深そうだ。
「そう、最近私をつけてたの、君だったんだ。」
な〜るほど。行き過ぎた愛によるストーカー行為か。正直驚いたが、モブである彼ならば仕方がない。
「僕は、僕はストーカーじゃない!」
美夢の指摘を否定するも、周りの反応は聞かずとも分かる。さらに、聞けば余計に分かる。彼の居場所はここにはもう無かった。ただの恥を晒す舞台となってしまったのだ。
逃げ出す彼を見てニヤける僕はクズなんだろう。これからの彼のキャラがどう変わるのか、人格が変わるレベルに彼が変化すれば、それは1人の人間で2人分取材できるということ。なんて便利なのだろうか。
「ごちそうさま」
僕は既に食事を済ました後だったので、美夢の完食を待っていたのだが、人を待つってのは素晴らしいと思う。
「性格悪いね〜」
「お前に言われたくねーよゲーム中毒者」
「はぁ!?それは言っちゃダメなやつでしょ!?」
口を出さず助けてくれなかった美夢は、ストーカーが居なくなった途端に素に戻る。気づけば僕たちの周りで昼食を取っていた人は全員どこかへ行ってしまっていた。空気を読んだのか、居心地が悪かったのか、そのどちらかだろう。
トレーを返却棚に返した僕たちは次の授業の用意をするために教室へ向かう。僕と美夢は教室が隣で、次は体育の合同授業だった。
「私着替えてくるね〜」
適当に返事を返して自分も教室から体操服を取り、更衣室へ向かう。さっきの騒ぎがあったからだろうか、視線を感じる。軽蔑、嫉妬、憧れ。美夢との関係を少し話しただけでこうなるとは。正直あいつは顔が広いし、こうなることは多少わかっていたことでもある。しかし、先週あいつからストーカー行為を受けている。と聞いたからつい犯人を煽ってしまった。要するに、「お前は相手にされていない」そう伝えたのだ。
彼のモブっぷりの顔はとてもじゃないくらいに蒼白であった。これに関しては少し申し訳なく感じてしまう。僕の取材のために恥をかかせてしまったからだ。まぁそれもこれもストーカー行為をした宮崎が悪い。
手早く着替え、更衣室を出る。やはり視線を感じるが、まぁ特に問題は無いしいいだろう。それよりも美夢だ。俺と離れてまた絡まれたりしてないだろうか。いや、さっき絡まれたのは僕だったな。
「おい」
「いってぇ?!」
低身長ロリ女子に気づかなかったことへの罪は重いらしい。背中を引っぱたかれた。美夢はそこまで低身長という訳でもないが、正直気づかなかった。これに関しては僕悪くなくない?てか足音なかったし、後ろに立たれても分からんしな?
自分が悪くなくても、それは美夢には通用しない。もう、相変わらずとしか言えなくなってきた。
「行くよ」
うちの高校の体操服は、まぁ普通の体操服だろう。学年によって色は違うけど僕たちは紺色だ。かなり短いハーフパンツに白いシャツ。美夢はその上から長袖の体操服を羽織っていた。日焼けを気にしているらしい。
「あいよ」
それより、髪を後ろで括った女子は案外可愛いのかもしれない。
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