第3話 プライド

 今朝はカーテンの閉め忘れにより予定起床時刻より1時間も早く起きてしまった。安定した睡眠時間を確保することで一日を生き延びている僕からすれば、これは今月最大の失態だと言える。

 寝室をの扉を開け、リビングに出る。服やらお菓子のゴミが散らばっている光景はもう見飽きた。彼女が家に出入りするようになり、私はソファで寝ると言ってから、はや3ヶ月。初めは僕への気遣いかと思っていたのだが、それも的外れ。ソファで寝るのは普通に寝る直前までゲームをするためだった。そしてこれが一番許せないのだが、机の上に放置する本達だ。僕は新人であろうとも小説家である。本に関してはそこそこ研究はするし、好きな漫画やラノベは沢山ある。それを片付けずに放置するとは…。

 叩き起してやろうかとも思ったがまだ6時半だ。流石に可哀想だと思いそのまま放置。僕はひとりベランダに出る。風に当たれば音を感じられるし、街を見れば物語の舞台を想像できる。日々の生活を取材に回すことを最近は心がけているのだ。

 まぁ、そんなことを考えて書くより、片手にコーヒーで朝日を眺める男子高校生を書く方がよっぽどましだ。

 今の自分、過去、将来の自分、理想の自分をを主人公と置いて小説を書く。それは、無理にキャラを作って執筆するよりも、効率的かつ作品としての完成度は高くなる。ヒロイン、サブキャラなどは自分の周りにいる人をイメージして設定するのが1番楽だ。日々の会話から、全てを取材と思って行動、言葉、仕草、全てを記憶に刻む。そうすれば小説なんて書くのは楽ちんってことだ。そこからは作業を進めるだけになる。

 1作品目のヒロインと今回のヒロインはどちらも似ている。なにせ、モデルにしているのが同一人物だからだ。刊行したらアンチ共がとやかく言ってくるかもと思ったが、まぁ売れればそれでいい。

 ただ義務教育がだるくて執筆を始めただけだ。よくラノベを読むし、自分でも書けるかなと思って書いてみれば案外評判が良くて。そのまま1年ほど続けたら中学卒業後の春には僕、関本遥高は小説家になっていた。自分がイメージした世界で、自分が理想とするキャラを動かす。それを文章で説明する。それだけだ。自分の作品で、自分の好きなように書く。真っ直ぐな考え方だと言えるだろう。しかし、そんな甘い考えは、後に足元から砕けていった。

 現実を浴びせられた。それは僕の理想の小説家とは全く違った。自分の意見は通らない。作者がどれだけ作品を面白くできるかと考える一方、出版社側はどれだけ売れる作品を作れるか、という真反対の考え方であった。

 自分の作品だと言えない程に修正が入る。自分が作者なのに、どんどん別の人の作品になってしまう。学生ながら小説家、という人気になりそうなワードに取り憑かれた出版社側は恐怖でしかなかった。全てを書き直すレベルの修正。売れるために彼らは死力を尽くして僕のプライドを抉っていった。

 そして先日、2冊目となる小説のの原稿を提出した。今回の作品は自分のプライドを捨てて書いた。しかしそれは、売れる本に仕上げたわけじゃない。

 超面白くて、超売れる本に仕上げたのだ。



【大人気の新人小説家。待望の2冊目出版か!?】

 SNSでそんな記事を良く見かけるようになった。新作を出すというのは僕が思ってるよりも世間は大袈裟に捉えているらしい。

 前回は読者を泣かせる感動系の物語を書いた。そして今、新作を待っている人は僕に何を期待しているのだろうか。そう、感動である。以前のような話をもう一度。そう願って待っているのだ。しかし、そのジャンルに絞ってしまえればいずれネタが無くなる。それを避けるために僕がとった行動とは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る