第2話 理想と現実
主人公が小説家のラブコメ作品のほとんどは夢のようなシナリオを展開していく。家に可愛い後輩や同級生、先輩などのメインヒロインがご飯を作りに来てくれたりする。そんなラブコメルートを見たことは無いだろうか。しかし、それは理想であって現実では無い。理想を作り上げることが小説家の仕事であり、夢を与えることもまた、小説家の仕事だ。そのために小説家達は現実と正面から向き合う。
実際に僕の家にも女子高生は出入りする。しかし、それは理想とはかけ離れた、ただの猛獣であった。
「おい!なんじゃこりゃ!?死ね!とっととくたばれカスがよぉ!」
世に言う暴言厨である。
「お前、学校での態度はどうした?」
僕が仕事をしていることへの配慮は全く無く、リビングを占領。許可すら出していないのにテレビ前のテーブルの上にはドライヤーからヘアアイロン、ボディークリームが散らばっている。さらに服装もTシャツ1枚に、見えそうで見えないハーフパンツ。
「知らないよそんなもん!」
体を左右に動かしながらコントローラーをポチポチ。ソファには僕の座るスペースは無く、僕は部屋の端のデスクに追いやられていた。本来ここが作業スペースなのだが、ソファーで寝転びながらの執筆も案外悪く無いのだ。
背中まで伸びる長い黒髪はボサボサだった。なんのためのドライヤーで、なんのためのヘアアイロンなのだろうか。許可を得ずに風呂に入るし、ソファは占領される。これが理想とはかけ離れた現実である。
夕方の5時に家に来て、次の日の朝の8時に家を出る。ちなみに次の日というのは普通の平日である。こいつ、スクールバックに着替えやもろもろを入れて直で僕の家に来るのだ。なんなら僕の教室まで家の鍵を取りに来て、先に家に入る始末。
両親は去年の冬に仕事で九州に転勤になって今は一人暮らし。春から3ヶ月、週4日は僕の家に住み着いているのだ。
「お前、僕の家来すぎじゃないのか?」
僕が彼女の家族への心配をかけようとも彼女はお構い無しだ。その問への答えはいつも同じで…。
「部屋隣じゃん。心配もクソもないよ。」
家が普通に隣なのである。たまたまマンションの部屋が隣で、たまたま同級生なだけの話なのだ。てか、普通にこいつの母親も用事があれば俺の部屋のインターホンを押して入ってくる。なんのための携帯電話だ。
「夜ご飯作ってあげてるんだし感謝してよ?」
「それは、まぁ…」
理想のヒロインとまではいかなくとも、ヒロインとしての活躍は完璧にこなしているのだ。プラスアルファで裏の性格が出ているだけで、一人暮らしの僕に夜ご飯を作ってくれる。それはありがたいことで、大変感謝している。
「ねーそういえば新作いつなの?」
「まだだよ!どっかの誰かさんがずっと家にいて執筆進まねえんだわ!」
「ひっど。泣いちゃうよ?」
感情のこもってない声の演出を披露する。その目線がゲーム画面から逸れることは無い。正直、新作に関してはほとんど完成していると言っていいラインまで来ていた。一通り書き終わり、編集者との推敲も既に八割程度終了していた。しかし、3作品目のヒット作品を出す勇気が僕にはまだない。高校に入って約半年、小説家としての活動をしていて痛いほどわかったのだが、書籍化すれば仕事が増え、仕事が増えれば勉強時間が減る。僕の本業は学生のはずなのに、いつの間にか小説家になっていたのだ。
俺に対してこの変態は、成績優秀、運動神経抜群で、学校では人気者を振舞っている裏表の激しい人間だ。
「お前、こないだの期末テスト何点よ」
「五教科は480くらい?」
毎日僕の家で約4〜5時間ゲームをしている女子の成績はこんな感じ。
「くそが、なんでだよ」
「いーじゃん
「それって俺のこと褒めてるのか?」
またもやゲーム画面から目をそらさなかったので恐る恐る聞く。
「要するに退学しろってこと」
想像の100倍クソみたいな返事が帰ってきた。
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