第1話 スキル恩寵の儀(後編)

天稟スキル恩寵の儀が執り行われている祭壇の前に歩み出るロタク。


「名前は?」と聞く司教。


「ロタクです」


「では、ロタクよ、祭壇の前で祈るがよい」


ロタクは祭壇の前で手を合わせ、いい天稟スキルがもらえることを願った。なお、ロタクには特になりたい職業はなかったので、たいがいの天稟スキルはそのまま受け入れるつもりだった。


すぐに天井から神の声が聞こえてきた。


「そなたに授ける天稟スキルは・・・『国王キングオブラプランス』」


自分の耳が信じられず、茫然とするロタク。観客からも怒声に似た声が響いて来た。


「司教!天稟スキル国王キングオブラプランス』とは何なんだ!?」誰かが叫ぶ声が聞こえる。


司教は静粛にするよう両手を上げた。ざわめきが収まっていく。


天稟スキル国王キングオブラプランス』は数百年前に一度だけ賜った特殊系の天稟スキルで、これを授かった者はやがて先代の王家を滅ぼし、新たな王朝を開いたことが伝わっておる。現国王のご先祖様であられる」


再びざわめきだす観客たち。


「その少年が王家を滅ぼすというのか!?」また誰かが叫んだ。


ロタクがおそるおそる後ろを振り返ると、儀式を傍聴していた国王が顔をまっ赤にし、その周囲の騎士たちが剣に手をかけていた。


この天稟スキルをもらえばすぐに騎士たちに拘束され、大罪人として処刑されかねない。そう思ったロタクはすぐに「チェンジ!」と叫んだ。


ざわめきが収まってくるや否や、再び神の声が聞こえてきた。


「そなたに授ける天稟スキルは・・・『王子プリンスオブラプランス』」


再び騒ぎ出す観客たち。


「司教!天稟スキル王子プリンスオブラプランス』とは何なんだ!?」誰かが叫んだ。


司教は静粛にするよう両手を上げた。ざわめきが収まっていく。


天稟スキル王子プリンスオブラプランス』は百年あまり前に一度だけ賜った特殊系の天稟スキルで、これを授かった者は国王の養子となり、国政に携わることとなった。時の王太子と後継者争いを繰り広げ、破れて死罪になったという」


再びざわめきだす観客たち。ロタクがおそるおそる後ろを振り返ると、子どもたちの最後に並んでいた王子が国王と同じように顔をまっ赤にしており、国王の周囲の騎士たちが再び手を剣にかけていた。


「チェンジで!チェンジでお願いします!」


ざわめきが収まってくるや否や、再び神の声が聞こえてきた。


「そなたに授ける天稟スキルは・・・『男娘おとこのこ』」


再び騒ぎ出す観客たち。


「司教!天稟スキル男娘おとこのこ』とは何なんだ!?」また誰かが叫んだ。


司教は静粛にするよう両手を上げた。ざわめきが収まっていく。


天稟スキル男娘おとこのこ』は十年に一度賜る芸術系の天稟スキルで、これを授かった者は女装を常とし、女人禁制の教会内で働くことが多い」と司教が説明した。


「時に王侯貴族に引き取られることもあるが、ロタクよ、心配するでない。汝は我が教会で引き受けよう」と、司教が少し頬を赤らめながら言った。


「い、い、いやだ〜!チェンジ!チェンジィ〜!」とロタクは叫んだ。しかしもう神の声が聞こえて来ることはなかった。


「残念じゃ、ロタクよ」と司教が本当に残念そうに言った。


「汝は天稟スキルを持たない凡人になることが決まった。だが、嘆くことはない、ロタクよ。まだチャンスはある」


「え?・・・僕はまだ天稟スキルを手に入れることができるの?」とロタクは聞き返した。


「ラプランス王国の属国のレクチェル王国では、16歳になった少年少女に神が天稟スキルを賜るという。もしその気があれば、レクチェル王国に赴くがよい」


「レクチェル王国?・・・それはどこにあるのですか?」


「北にそびえるドワイコミス山脈を越えた最北の大地にある国だ。旅路は過酷だ。それが嫌なら凡人として適当な職業に就くがよい」


ロタクは目の前が真っ暗になった。ドワイコミス山脈は急峻な山々が連なり、夏でも深い雪に覆われている。安全な峠道などなく、崖の登り下りを繰り返さなくてはならなかった。


ロタクは絶望して祭壇から遠ざかった。観客たちはロタクから離れ、教会の出口まで道が開いた。ロタクは絶望して、とぼとぼとその道を歩いて行った。


ロタクと入れ替わりに祭壇に向かったのが王子だった。


「名前は?」と聞く司教。


「ヤオラです」


「では、ヤオラよ、祭壇の前で祈るがよい」


ロタクは祭壇には注意を払っていなかったが、いやでも神の声が聞こえてきた。


「そなたに授ける天稟スキルは・・・『農民』」


「いやいやいや、僕は王子ですよ。農民をバカにするつもりはないけど、僕にはふさわしくありません。チェンジでお願いします」とヤオラ王子の声が聞こえる。


「そなたに授ける天稟スキルは・・・『鍛冶』」再び神の声が聞こえた。


「それも困ります!王宮には鍛治工房がありません。チェンジでお願いします」とヤオラ王子。


「そなたに授ける天稟スキルは・・・『女傑アマゾン』」


神の声を聞いて観客のざわめきが大きくなった。


「司教!天稟スキル女傑アマゾン』とは何なんだ!?」また誰かが叫んだ。


天稟スキル女傑アマゾン』は二百年ほど前に一度だけ下された特殊系の天稟スキルで、これを授かった者は勝ち気な女丈夫となり、男より前に出て国政を弄したと伝えられておる」と司教が説明した。


「ぼ、ぼ、ぼ、僕は男だぞ〜!」ヤオラ王子のひときわ大きな声が響いた。


しかしロタクは王子の天稟スキルには興味がなく、とぼとぼと教会の外に出て行った。


天稟スキルが得られなかった。親には何と言おう?・・・家を追い出されるかな?レクチェル王国に行くのは無理だけど、どこか遠くの地方に行こうか・・・」


ロタクがそんなことを考えて立ち尽くしていると、突然ロタクの右手を誰かがつかんだ。


驚いて振り返るロタク。彼の手をつかんだのは、なんとヤオラ王子だった。


「お、お、お、王子様!?」素っ頓狂な声を出してしまうロタク。


「君はさっき天稟スキルを得られなかった少年だろう?名前は確か・・・ロ、ロ?」


「ロタクです、王子」とロタクは答えた。


「僕もいい天稟スキルをもらえなかった。だから、一緒にレクチェル王国に行こう!」


王子の提案にロタクは飛び上がらんばかりに驚いた。


「む、む、む、無理ですよ!あんなにも険しい山を越えないといけないんですよ!」


「確かにひとりでは困難だけど、二人なら道が開けるさ!」


「お、王子。王子は例え天稟スキルがなくても王子様でしょう?生活するのに何の支障もないはず!」


「そうはいかないんだよ。王子は僕ひとりじゃない。弟が3人もいるんだ!そのうちの誰かがいい天稟スキルを手に入れたら、僕は一生部屋住みで、国王になれないばかりか表にも出られなくなってしまう!既に父は、国王陛下は、僕を置いて先に帰ってしまったんだ!」


「そ、そうなんですか?・・・王子様も大変ですね」


「だから一緒にレクチェル王国まで行って、いい天稟スキルをもらおう!」


「そんな・・・」とロタクが困っていると、


「それなら私がお二人に付き添いましょう」という声が聞こえた。


「誰だ、お前は?」と聞き返す王子。ロタクが見ると、それはさっき教会前で話をした中年男性だった。


「私は王宮の警備隊に所属しているピダランと申します。偸盗ちゅうとうスキルを持っていますので、いろんな局面でお役に立ちますぞ」


「で、でも、王子もピダランも勝手に王宮を離れていいの?」


「その点は既に話をつけてあります。国王陛下の許可もいただいております」


「それは話が早い。それではピダラン、すぐに3人の旅の準備をすませて出発しよう」


「は、承知つかまつりました」


こうしてロタク、ヤオラ、ピダランの3人は妙な旅を始めることになった。険しい旅路を経てレクチェル王国で天稟スキルを授かる期限はあと1年。彼らは無事に目的地にたどり着き、天稟スキルを手に入れることができるのだろうか?

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