天稟恩寵の儀〜神から与えられたスキルは人生を左右するか?〜

変形P

前編

ここ、ラプランス王国では、国民が15歳になると天稟スキルが神から与えられる。


神とは国教であるグラプト教の唯一神で、その姿を人が見ることはできないが、天稟スキル恩寵の儀の時のみ、人は神の声を聞くことができる。


知られている天稟スキルには以下のものがある。


・戦士系:拳闘スキル、剣術スキル、弓術スキル、槍術スキル、軍師スキルなど

・職人系:鍛冶スキル、大工スキル、建具スキル、服飾スキル、偸盗スキルなど

・産業系:農民スキル、漁師スキル、猟師スキル、樵夫スキル、商人スキルなど

・事務系:経理スキル、簿記スキル、法務スキル、監査スキル、書記スキルなど

・医療系:診断スキル、調薬スキル、施術スキル、療養スキル、介助スキルなど

・芸術系:素描スキル、演奏スキル、彫刻スキル、戯作スキル、賦詠スキルなど

・特殊系:上記に分類できない特殊なスキル


天稟スキルとは神が人に与える才能ではあるが、その才能を生かした職業に就いたとしても、その業界で大成功するかはその人次第とされている。


例えば剣術スキルでは、剣の扱いが得意にはなるが、剣豪になれるか否かはその人の努力と運次第である。


また、戯作げさくスキルは物語を楽しんで書き連ねることができるが、その作品が万人に受けて大作家になれるという保証はない。


天稟スキルがあるとそのスキルを生かした仕事をこなすことが多少は楽にはなるが、天稟スキルがなくても必ずしも生きていくのに困るわけではない。また、本人の希望もあるので、神の声に対して2回までは天稟スキルを変更することが許されている。


ただし、神が与えた天稟スキルを3回拒むと、その人には天稟スキルが与えられない。天稟スキルが与えられなかった人のことを、凡人スキルを得たと表することもある。


ある年、王都サイテムに住む少年ロタクは15歳になり、グラプト教の神殿に天稟スキルを賜りに向かった。


例年よりも多くの人が教会に集まっている。


「なんでこんなに人が多いんだろう?」とロタクがひとり言を言うと、見物に来ていた中年男性が、


「今年は王子が15歳になる年だからな、国王や警護の騎士たちが集まっているんだ」と聞かないのに教えてくれた。


「へ〜、王子も天稟スキルをもらうのか?将来は国王になることが決まっているのに」


「王子がひとりしかいないわけじゃあない。もし王子が変な天稟スキルをもらったら、廃嫡ということもあり得るんだ」


「そうなんだ。・・・僕たちは天稟スキルに応じた職業に就けばいい話だけど、王子は大変だな」


「そうだな。せめて戦士系か、法務スキルならいいんだが・・・」


「ところでおじさんは何の天稟スキルをもらったの?」


「俺か?・・・俺はなあ、子どもの頃は絵を描くのが好きだったんだ。親によく『落書きなんぞしないで、家の仕事を手伝え』って叱られていたなあ・・・」とその男性は言って過去の記憶を探るように目を細めた。


「だから素描スキルがほしかった。それがあれば絵師の弟子になれるだろうと思ってな」


「その天稟スキルをもらったの?」


「いや、最初にもらったのは漁師スキルだった。・・・俺は愕然としたぜ。何せ俺は町育ちで、魚を取りに海や川に行ったことなんぞなかった。漁師に雇ってもらいに漁村に行くなんて、とても考えられなかった」


「・・・おじさんは漁師には見えないね」


「そりゃそうだ。俺はすぐに別の天稟スキルをくださいって神様に頼んだんだ。そしたら次にもらったのが賦詠ふえいスキルだった」


賦詠ふえいスキルって何?」


「短い詩を書くのが上手くなるというスキルだ。俺はそれまで詩なんて読んだことはなかった。でも、同じ芸術系だろ?もう一度天稟スキルを変えたら、今度こそ素描スキルがもらえるかもしれないと考えた」


「それで神様に願ったんだね」


「そしてもらったのが偸盗ちゅうとうスキルだった」


偸盗ちゅうとうスキルって何なの?」


「人の家にこっそり忍び込んだり、鍵を簡単に開けられるようになるという才能さ」


「それって泥棒ってこと?おじさんは泥棒を仕事にしているの?」


「馬鹿!俺が泥棒だったら、今頃捕まって牢屋に入っているぞ」


「それもそうだね。で、どうしたの?」


「しかたないから偸盗ちゅうとうスキルをもらって、今は王宮で働いている。と言っても仕事場は王宮内ではなく、こうやって町をぶらついて、王家や王宮に不満を持っている輩を捜し、警備隊に報告してるのさ」


「王宮に雇われているなんて出世じゃん!」とロタクは言ったが、男性は首を横に振った。


「人々の不平不満を粗探しするなんて、やな仕事だぜ、まったく。第一俺が警備隊の手先だと知れたら、ごろつきどもに何をされるかわかったもんじゃない」


「それもそうだね。・・・って、僕にそんなことを話していいの?秘密にしてるんじゃないの?」


「時々無性に誰かに話したくなるんだ。お前とはもう二度と会わないと思うけど、俺のことを誰かにチクるんじゃないぞ」


「わかったよ、おじさん」


「お前も15歳になるのか?そろそろ儀式が始まるぞ。教会の前の方に行くといい」


「うん。じゃあね、おじさん」ロタクはそう言って教会の中を進んで行った。


教会の奥の祭壇の上は高いドーム状の天井になっており、その天井から神の声が聞こえるのだという。


王都の15歳の少年少女が数十人並び、ロタクもその中に混ざった。なお、15歳になる王子はロタクたちの集団の一番後に並んだ。


子どもたちの周囲には観客がおおぜい集まっており、誰が何の天稟スキルを賜るのかを楽しみにしているようだった。その観客の後に国王と騎士たちもいる。


「では子どもたちよ、順番に前に来なさい」と祭壇に立つ司教が言った。


ロタクたちは誰から先に行けばよいか迷っていたが、一番前にいた少年が意を決して歩み出た。


「名前は?」と聞く司教。


「コブルです」


「では、コブルよ、祭壇の前で祈るがよい」


司教に言われてコブルという名の少年は祭壇の前で手を組み、頭を下げた。とたんにドーム状の天井が淡く光り、中性的な神の声が聞こえてきた。


「そなたに授ける天稟スキルは・・・『拳闘』」


おーっと教会にいた子どもや見物客が声を上げた。


「『拳闘』か。・・・戦には向かないから、兵士じゃなく警備兵だな」と誰かが言った。


コブルは嬉しそうに祭壇の前から下がって来た。


「次の子どもよ、出なさい」


司教の言葉に従って今度は少女が前に進んだ。


「名前は?」と聞く司教。


「ルチアです」


「では、ルチアよ、祭壇の前で祈るがよい」


少女が祭壇の前で手を組むと、すぐに神の声が聞こえてきた。


「そなたに授ける天稟スキルは・・・『樵夫きこり』」


どよめく観客たち。当の少女は困惑していた。


「神様、私は女です。力を使わない天稟スキルがほしいです」


天稟スキルに不満があれば、『チェンジ』と唱えるがよい」と司教が言った。


「チェンジ!」すかさず唱える少女。するとまた神の声が聞こえてきた。


「そなたに授ける天稟スキルは・・・『服飾』」


それを聞いて少女の顔が明るくなった。


「ありがとうございます、神様。私はお針子になります!」


少女は満足げに戻って来た。


このように、どう考えても似合わない天稟スキルが与えられることもあるが、チェンジを1回か2回唱えると、それなりの天稟スキルを得ることが多いようだった。


2回チェンジして、それでも意に沿わぬ天稟スキルをもらう子どももいたが、それを断ると凡人になってしまうので、その子どもは観念してその天稟スキルを受け入れた。


このように次々と少年少女たちは天稟スキルを授けられ、ついにロタクの番が来た。

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