第二章・あなたといつもいられたなら5ー①

ギルバートがアダムの手を借りて自宅へ帰ると、ちょうど診療が終わった頃合いだった。

診療室の後片付けをしていた助手のシニスタが、具合の悪そうなギルバートへと駆け寄って来た。


「ギルバートさん!どうかなさいましたか?!」


「ちょっと暴漢に襲われて……この人に助けて貰ったんだ」


「この方が、アダム様ですか」


ブランドンから聞いていたのか、シニスタはアダムの顔を見ても、さして驚きはしなかった。

シニスタもまた、魔導士の端くれではあったが、魔力が弱い為にブランドンの助手としてヒーリングの手伝いをしていた。


魔導士の力関係は、その地位にも比例する。

シニスタはブランドンに絶対服従ではあったし、また、そのブランドンが敬服するアダムには、深々と頭を下げて挨拶した。


「ギルバートさん、暴漢に襲われたって、大丈夫だったんですか?」


「腹を刺されたんだけど、アダムが治癒してくれて」


「刺されたのを治癒?アダム様は治癒士なのですか?!」


「いや、私はどちらかと言えば万能型だ。治癒専門ではない」


「万能型……マーロン様以外の魔導士では、見た事がありません……」


シニスタが今にも平伏しそうなまでに、尊敬の眼差しを向けて来る。

それは、純然たる魔力の強さからの敬慕だった。

シニスタとアダムに支えられながら、ギルバートは二階の自室へと連れて行かれ、横になった。


「私はこのまま帰らせて頂きますが、もうじきブランドン様もお帰りになるかと。最後の患者様を家まで送っておられるので」


「アダムも帰って良いよ。説明は俺がするし」


アダムとブランドンを会わせたくはない。

アダムがいれば、ブランドンは引き留めようとするのは目に見えていた。


だが結局はその直後、シニスタと入れ替わりにブランドンが帰って来てしまう。

案の定、アダムの顔を見た途端、兄は頬を紅潮させて喜んでいた。


「アダム、良かったら夕食を食べていって下さい。弟達の分もあるので、沢山余っていて」


「いや、申し訳ないが遠慮させて頂く」


「では、お茶だけでも。患者様からの差し入れで、今、流行の焼き菓子があって。弟の状態も聞かせて頂きたいですし」


「……では、少しだけ」


「ギルには後で、何か持ってきてあげるから」


体調の悪そうな弟に対してのブランドンの心遣いも、ギルバートには「邪魔はするな」と言われたように感じた。

アダムと二人きりにはしたくなかったが、ギルバートもだるい体を押してまで、リビングで茶を楽しむ気力もなかった。

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