第二章・あなたといつもいられたなら4ー②

ギルバートは自分が何故襲われたのか、全く思い当たらなかった。


「俺……このまま死ぬのかな……。ジェレミー……俺が死んだら、墓の前で、文句言いまくる、んだろう……な……」


自分がいなくなったら、あの家はどうなってしまうのか。

性格的に絶対に相容れない二人が、共に暮らしていくなんぞ考えられない。

せめてブランドンには、暖かな目でジェレミーの行く末を、縛り付ける事なく見守ってやって欲しい。


仲良くなるのは望めないだろう。

それでも、この先いがみ合って生きていくのは悲しい。


ジェレミーの視界が段々と狭まり、暗くなっていく。

そうして、その全てが閉ざされる間際、見覚えのある『頭蓋骨』が目に入った。


「ギル!大丈夫かっ?!」


「……アダム……」


「死ぬな!私が、絶対に助けてやる!」


アダムが腹部を押さえるも、ドクドクと脈打ちながら流れ出る血を止められない。


「不味い……出血し過ぎている」


「アダ……ム……」


「喋るな」


ギルバートの裂けた腹に当てたアダムの手のひらから、白く丸い光が浮かび上がった。

月光のような柔らかな光は、辺りを暖かく照らす。

そして、ギルバートはそこから暖かな何かが体内に流れ込んで来るのを感じた。


「何を……したんだ?」


「私の血をギルの中に注いでから、傷を塞いだ。体質が合わなければ、拒否反応が出るかも知れない賭けだったが……違和感はないか?」


「ないよ」


「良かった……」


出血多量で命を落とすギリギリだった。

あと数分でも出血を止めるのが遅ければ、命を落としていたかも知れない。


「動けそうか?」


「うん……、多分」


「まだ、傷が痛いか?」


「傷は痛くないけど、熱が出たみたいに、ぼーっとする」


「拒絶反応はないみたいだが、いきなり他人の血が入って、体が驚いてるのかも知れない。しばらくは無理をせずに休んでくれ」


「分かったよ」


「どんな奴等に襲われたか、覚えているか?」


顔見知りは一人もいなかった。

全員が黒いフードを被ってたし、少なくとも自分のような剣士とは思えなかったし、暗殺を専門とするような手練れにも思えない。

どちらかと言えば、そういった荒々しい仕事をしていなさそうな、手際の悪さすらあった。


「家まで送ろう。まだふらつくんだろう?」

  

アダムに、「普段ならこんな風に簡単にやられる事などない」と言っても、こうして助けられた後では真実味がない。

剣士として矜持を持って生きて来ただけに、腹立たしいことこの上なかった。


「あいつら、もう一回、戻って来ないかな。そしたら、今度はこっちがボッコボコにしてやるのに」


「やめとけ。今は、泥酔したみたいに千鳥足なんだから」


「今日はもう、飲めないよな」


「飲んだら確実に悪酔いするぞ」


「リリス亭に行くつもりだったのに」


そして、アダムと夕食を共にするつもりだったのに。

そう言いたかったのが伝わったのか、アダムはククッと喉で笑った。


「私も、ギルと語り合えなくて残念だ」


「……別に、俺はアダムと飲みたいって言ってないし。てか、アダム、飲まないだろ」


「アルコールが入ると、魔力のコントロールがし難くなるんだ。だから、周りに何もない所で野宿してる時なら、飲んでも構わないが」


「野宿、した事あんのか!」


「しょっちゅうだ。エレンなんか、木の上だろうが、雪山だろうが、熟睡するぞ」


「凄い……な」


『凄い奥さんだな』と言おうとした。


だが、また喉にロックが掛かった。

いつになったら、アダムと何のしがらみもなく話せる時が来るのだろう。


アダムと、自分と、エレンと。

その関係性が、自分でも分からない。

それは、アダムの言う目的が達成された時、はっきりとするのだろうか。

はっきりさせたいようで、させたくない。

自分は、アダムとどうなりたいのかを。

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