第二章・あなたといつもいられたなら4ー①

「ギルバートー!仕事が終わったんなら、オジサンとご飯食べに行かない?」


ここは下町かと思わせるこの掛け声は、紛れもなく聖殿のトップであり、魔導士達の頂きにいる男、マーロンのものだった。

こんな誘いは日常的だったので、ギルバートもシレッとあしらった。


「知らないオジサンに誘われても、「付いて行っちゃ行けません」とお母さんに言われているので」


「いやいや、君の所、男所帯でしょ?しかも、私は知らないオジサンじゃないじゃない」


「知らないオジサンです。俺の知る聖魔導士様は崇高な方なので。こんな軟派な魔導士はこの世に存在しません」


「ギルバートぉ~」


マーロンといい、未だに毎日のように花を贈って来るジュリアーノといい、どうしてこうもこの国の男達は、自分に絡んで来るのだろうか。

まさか、男である自分がどうこうされる事はないだろうが、それでも居心地が悪い。

それは、マーロンやジュリアーノが自分に釣り合う身分ではないからだ。


同年代や、同等の地位の人間からの誘いなら、こうまで気不味さは感じない。

相手がダントニオ皇国の権力者だと思うと、どうしても甘んじて受けるのには躊躇いがある。


そのまま半ば切り捨てるように、ギルバートは形だけの挨拶をして去ろうとした。

だが、素気なくされても気にせずに話し掛けて来るマーロンから、「最近、髑髏の魔導士が街に現れたって聞いたんだけど」と聞かれた時、思わず動揺して体を震わせてしまう。

ギルバートの返答がないにも関わらず、マーロンは「そっか、そういう事か」と納得し、去って行った。


アダムからの封印がなされているのを感付かれたのだろう。

『アダムの望まない事は、口に出来ない』という呪縛が、ギルバートには掛けられていた。

それが、どういう法則で発動しているのかは分からない。

 自分では解除のしようもなかったし、元よりアダムの事を他人に言うつもりもなかったので、それには気にも止めなかった。


そうしていつものように、仕事を終えての帰り道、それは突然だった。

ギルバートもいきなりの襲撃に、何が起こったのかも分からず、身構えられなかった。

曲がり角から降って湧いたように黒尽くめの男達が現れて、周りを囲まれた。


それを生業にしている男達ではないのはすぐに解ったが、群がるようにして襲われ、気が付けば右脇腹に刃が突き刺さっていた。

その吹き出す鮮血に、男達が後退る。

暴漢達はギルバートの命まで奪うつもりはなかったのか、あまりの出血の多さに狼狽し、逃げ出した。

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