第二章・あなたといつもいられたなら2ー③
「せっかくのお祭りなのに、アダムは酒でなくて良いのか?」
「ああ、水で良い」
ギルバートは、アダムの顔を直視出来ないでいた。
この顔が、アダムの本当の顔ではないと解っていても、どうにも慣れなくて、気恥ずかしい。
そうして苦し紛れに話題を捻り出し、ついプライベートな事を話すつもりはないのに、口を衝いて出てしまう。
酒の力もあって、いつもより饒舌になっていた。
「ジェレミーは、家に帰りたがらないのか?」
「あいつ、兄のブランドンが嫌いなんだ。ジェレミーは一言一言がキツいし、最近はそれが特に酷くて、二人が会うと間に入って止めるのも大変っていうか」
「確かに弟の口は、かなりの毒舌だったが」
「だろ?あいつも少し抑えればいいのに。せっかく可愛い顔に生まれて来たんだから」
「可愛いというなら、お前も可愛い」
「え?……あ、はぁ?!」
「いや、ジェレミーは感覚が鋭いんだと思う。魔力がある、とまでは言わないが、普通の人間よりも直感力に優れている」
「アダムには、分かるのか?」
「何となくだが」
「そしたら、兄は……」
「それは分からない。魔導士の精神は一般人からは考えられない鍛え方をしているから、その内面までは視え難いんだ」
「そうなんだ」
「酷なようだが、お前達兄弟は離れて暮らす方が幸せだと思う」
「やっぱりそう思うか」
「世の中には、家族であっても合わない人間はいる。互いが憎しみ合う前に、離れた方が良い」
「だよな」
「兄だけじゃない。弟からもだ。ジェレミーはギルに対して執着が過ぎる。それは、いつかマイナスになるかも知れない。だから、適度な距離を置け」
「ジェレミーからも?」
「……すまない。今のは、私の偏った私見だった」
何故、アダムが謝るのだろう。
私見とは、どういう意味なのか。
ギルバートは咄嗟に言われて、その意味を測りかねていた。
「あのさ、それって、どういう意味、なのかな?」
「私とエレンは、ある目的があってこの街にいる」
エレンの名前が出て、頭から水をぶっ掛けられたように、ギルバートは一気に素面へと戻った。
恋人か、妻か、どちらかは分からないが、アダムの連れ添いであるエレン。
妹かも知れないとも思う。
だが、ギルバートは何故かそれを問いただせなかった。
聞こうとしても、喉でその言葉が詰まる。
何度かそれを試しても無駄だと解った時、自分に魔術が掛けられていると察した。
アダムは、聞かれては困る事は魔力によって封じていて、身の回りを探られまいとしていた。
「いつまで、この街にいられるんだ?」
「目的が達成されたら」
「目的……」
「その時には、私と一緒に、この街を出ないか?」
ギルバートには、「うん」とも「いいえ」とも言えなかった。
魔力で封じられているだけでなく、ギルバート自身、あまりに突然な申し出に、自分の気持ちが付いていかない。
それにはアダムも、まるで独り言のように「聞いても答えられないのは解っている」と自虐的に微笑んでいた。
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