第二章・あなたといつもいられたなら2ー①

ギルバートは近頃、ろくに家の食卓には着かない。

それには、ブランドンと向かい合って食事するのにも辛くなっているからだ。


最近の兄は、アダムの身辺に関する話ばかりする。

どこに住んでいるのか、出身はどこなのかと、やたら聞いて来る。

「知らない」と突っぱねれば、「いつもリリス亭で一緒に食べているなら、自分も兄として弟の友人の事を知りたいから、同席したい」と言い出す始末だ。

それには、何か薄気味の悪いものを感じて、ギルバートはリリス亭に行くのすら躊躇うようになってしまった。


そのうち、ブランドンは無理矢理に押し掛けて来るかも知れない。

そう思うと気鬱になり、今日はアダムへ「しばらくはここへ来ない」と言うつもりでいる。


ギルバートがいつものようにリリス亭に向かうと、その入り口で深くフードコートを被るアダムが、壁に凭れるようにして立っていた。


「何してんの?中に入らないのかよ」


「今日はギルバートを待ってた。来なかったら帰るつもりだったから」


「え?……何で……」


「今、街で花祭りがやってるだろう?行った事があるか?」


「ニ~三年前までは、まだ小さかったジェレミーを連れて行ってたけど」


「私も初めてなんだ。だから、案内してくれないか?」


そう言われて、喜びのあまり、ギルバートの胸が熱く震えた。

そして改めて気付かされる。

自分は、リリス亭へアダムに会いたいから通っていたのだと。


ブランドンが入り込んで来て、今の居心地の良い関係が壊されるのが嫌だったのだ。


「案内するよ。毎年出てる美味い屋台もあるんだ。今年もあれば良いけど」


「そうか」


「ちょうど、リリス亭に今度から来にくくなるかな、って言おうと思ってたし」


「何かあったのか?店主が何かやらかしたか?」


「いやいや、デズモンドは関係なくて。……何て言ったらいいかな。うち、今ちょっと兄弟で揉めてるって言うか……」


「それなら、今度からシールドを張ろう。デズモンドには許可を取る」


「シールド?」


「魔法で張る幕のようなものだ。誰にも邪魔されずに、会話する事が出来る」


「そんな事が出来るのか!」


それではまるで、アダムから「お前以外に、誰かと食事をするつもりはない」と言われているようで、気恥ずかしくなる。


アダムは、自分ギルバートを誰よりも優先してくれている。

そうした心遣いは、ギルバートは素直に嬉しかった。

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