第二章・あなたといつもいられたなら1ー①

「ジェレミー、剣士学校、成績トップおめでとう!」


リリス亭の店主、オズワルドが声を張り上げて乾杯の合図をすると、店内の客達がグラスを掲げた。

毎日のように訪れるギルバートは、既にリリス亭の主のようになっていて、同じように食事する客達から、しょっちゅう「一杯、奢らせてくれ」と言われるのを断るのに困る程だ。

その弟との快挙ともなれば、客の皆が我が子の事のように喜んでくれた。


国を守る剣士を育てる育成校で、最終試験5教科と、剣技の成績で満点を取ったのは、ジェレミーが史上初だった。

確かにこれだけの頭脳があれば、ブランドンの言うように文官を目指していた方が生涯年収は高いだろう。

だが、ジェレミーは何度も兄に説得されるも、最終的には成績トップを勝ち取り、自らの将来への切符も手に入れた。


成績が優秀だった生徒は、就職先を希望出来る。

本来なら、最も名誉ある皇宮勤めを願い出るのが普通だ。

 だが、ジェレミーはこれまでの宣言通り、聖殿での勤務を希望した。


「流石、筋金入りの兄貴信奉者だなぁ。皇宮を選べば給料が三割増しになったのに」


「オズワルド、あのね。僕はお金が欲しいんじゃないんだよ。とにかくギルに幸せになって欲しいの。だから、ギルを守る為に役立ちたいの。……て、まさかこの店で、ギルに迫ろうなんて男はいないだろうね?」


「おい!お前、兄貴が男だってマジで忘れてないか?」


「ギルって本当に、自分の事を解ってないよね」


そう言われて先日、皇帝から初対面で『友人になってくれ』と言われたのを思い出す。

あれから聖殿に、ギルバート宛で大量の花が届くようになった。

ジュリアーノの名義で、しかも手紙まで添えられて。


『なかなか貴方に会えそうにないから、文通して欲しい』と切に訴える、まるで恋しい女へ愛を乞うようなその文面には、ギルバートも対処に困り、マーロンへ相談した。

すると、『流石、ギルバート!皇帝までも虜にしたか!』と大笑いされる。

だが今後、ジュリアーノの応対には、必ずマーロンが担当するのを約束してくれた。

返礼状には、それとなく手紙を書くのは苦手だと記して、やんわりと文通を断り、贈られた花は神殿の中に飾られた。


という話を、ジェレミーにはしてはいない。

それを聞いたら、「ギルバートが側室にされる!今すぐこの国から逃げ出さないと!」などと言い出し兼ねないと思ったからだ。


「ギルのモテ具合は異常だからね。ちゃんと見張っててよ、オズワルド」


「ジェレミーとアダムがいない時はな。でもまぁ、あいつがいたら誰も寄って来ないし」


「アダムってあの骸骨野郎の事?!」


途端にジェレミーの顔色が変わる。

ジェレミーにとって、アダムも他の男も兄に近寄る『敵』としては同じだったが、ギルバートは慌てて、それを訂正した。

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