第一章・あなたと出会えたなら6ー②

「答えられないなら、とにかく今は命令させて貰う。私の友になれ」


「陛下……」


「多くは望まない。マーロンのように、他愛もない話をしてくれるだけで良いんだ。家族の事や、夕食での話題とか」


「この先、俺が陛下と会える機会は、そうそうないと思いますが」


「何とか時間は作る。だから、『陛下』などと堅苦しい呼び方ではなく、名前で呼んでくれ」


「……貴方は、この国で唯一無二の方です。名前呼びなんて無理です」


「お願いだ」


女と見紛う美麗な面差しで、乞われるようにして言われれば、拒絶し辛い。


「ギルバート、ジュリアーノと呼んでくれ」


「では、ジュリアーノ様と」


「様はいらない」


「無理です。これ以上はお許し下さい」


ギルバートは深々と頭を下げる。

根負けしたジュリアーノは、仕方なくそれを容赦した。

聖殿内を一通り案内して、護衛やクランチが待つ表門で、ギルバートはやっと任を解かれた。


そのあからさまにほっとしているその姿に、ジュリアーノは胸が痛む。

こんなにも興味を持ったのは、ギルバートが初めてだったし、本当ならあんな風に無理強いをしたい訳じゃない。

どうしたら、身分など気にせずに接してくれるだろう。

帰りの馬車の中でも、ジュリアーノの頭の中はギルバートの事で占められていた。


確かに本人が言う通り、初対面でこんなに惹かれるなんて、しかも半ば強引に『友達になってくれ』などと子供のように乞うなど、自分でも気が狂ったのかと思う。

皇帝として、十代の頃からこの国を統治して来たこれまでからは、考えられないような幼稚さだった。


「皇帝陛下。今日のところは、聖殿の中が安全だという事で私も離れましたが、今後、このような無理は仰られませんようにお願い致します。陛下の命は、貴方一人のものではないのですよ」


「解っている。だが、私も人間なんだ。この位の自由は認めてくれ」


「男相手に優しくする意味がありますか?子も産めないというのに」


「今いる側室達は大切にしているだろう。何か問題があるか?」


「でしたら、側室のどなたかにお世継ぎを産んで頂くか、早く正妃様をお迎え下さい」


ジュリアーノのには八人の側室がいたが、まだ誰にも子をなしてはいなかった。

皇族からは、子供が生まれにくい。

ただでさえ、女の少ない世界で人口の減少が懸念されている世界で、皇族は更に子供が出来難い体質だ。


クランチが「男などに浮かれている暇があるか」と諭すのも解る。

だが、そうした環境全てが、真綿で首を絞めるようにして、ジュリアーノの精神を呪縛する。


幼い頃から皇帝になる者として育ち、何一つ自由はなかった。

そうして圧迫に圧迫をされて、押さえ付けられた人生だったが、ギルバートを見た瞬間に、弾けたようにして何かが湧き立った。


ギルバートに、魅了の魔法でも使われたのかと思った程に惹き付けられた。

もしもギルバートが女だったら、有無も言わせずに正妃として奪っていたかも知れない。

そうまで、人間に対して貪欲に『欲しい』と思ったのは、生まれて初めてだった。

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