第一章・あなたと出会えたなら6ー①
「聞きそびれたな。君、名前は?」
「申し遅れました。ギルバート・ヴェンジェンスと申します」
「……クランチ、席を外してくれ」
「私は陛下の側近ですので、いつ何時も離れる訳にはいきません」
「お前はつい先程、ギルバートに対して『天下の皇帝陛下の命に抗うか』と高圧的に言っていたな。『地べたに額を擦り付けて、赦しを乞え、この愚民』とも」
「そ、そうですが……」
「お前はその『天下の皇帝陛下』の命に背くのか?」
クランチはぐっと喉を詰まらせて、そのまま頭を下げて引き下がった。
ギルバートを射殺すように睨み付けて。
そうしてやっと、自らの周りから人がいなくなって、ジュリアーノはほっと息を吐いた。
「さぁ、案内してくれるか?」
「承知致しました」
ギルバートは、入口の護衛を他の剣士に任せて、ジュリアーノを神殿の中へ誘った。
大きな窓ガラスは、色彩豊かなステンドガラスが嵌め込まれ、差し込む光は
若い魔導士から教壇に立つ壮年の魔導士まで、通り過ぎる魔導士達は礼儀正しく頭を下げていく。
聖殿に住む212人のうち、生徒とされる未成年者は165人。
各々、年齢によってクラス分けされ、勉学や魔法学だけではなく、魔導士としての倫理観や美しい所作も学ばされる。
ジュリアーノは、規律正しく授業を受ける少年達を眺めながら、染み染みと洩らした。
「マーロンは、ギルバートの前ではどんな男なんだ?」
「何という事のない会話ばかりです。日常的な」
「そうして、何気ない会話も出来るという程に信頼されているんだろう」
「俺とマーロン様とでは、身分が違います。そこまで慣れ合える程の関係では……」
「私にも、そう接して欲しい」
「はぁ?」
「私にも、友として相対して欲しい」
「ちょっと待って下さい。俺とは初対面ですよ?それなら、同世代の皇族の方とかいらっしゃるでしょう?」
「同世代の皇族は、皆が私に平伏す。友人になんかなれる筈がない。それに、ギルバートには何か運命的なものを感じるんだ」
「運命的って……」
ついには聖魔導士だけでなく、皇帝にまで懐かれてしまった。
こうまで男に好かれるのには、ギルバート自身、流石に異常なものを感じていた。
自分は女のように愛らしくもない。
それどころか、一般的な男よりも鍛え上げている方だ。
それなのに、何故こうまで男達に執着されるのか。
皇帝にまで好意を持たれてしまったと知られれば、弟のジェレミーは何と言うだろう。
『ほら、やっぱりギルには人誑しの才能があるんだよ』
『もっと気を付けないと、いつか襲われるよ』
そう言って、卒業したら本当にギルバートの護衛をしかねない。
だが、単なる平民でしかない自分が、何と言って断れば不敬にならないのか分からない。
ギルバートが言い倦ねていると、ジュリアーノは強引に詰め寄って来た。
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