第一章・あなたと出会えたなら4ー③
ブランドンは憑かれたようにして、矢継ぎ早にアダムへ質問する。
どうして魔力を封じられたのか。
もしもそれが封じられていなかったとしたら、どれ程の魔力なのか。
聖魔導士マーロンを超える程なのか。
そうして質問責めにされるアダムを見て、骸骨の上からは表情こそ窺えないが、ギルバートは違和感を覚えていた。
差し障りなく応じるアダムから、厭うような心情がそこはかとなく漂っている。
ブランドンにはそれが分からないのか、まとに応えて貰えていないのに、尚も捲し立てる。
やがて、終わりのないブランドンの問い掛けを遮るようにして、アダムが立ち上がった。
「ギル、また来る」
「おう、またな」
「また、お会いしましょう。楽しみにしています、アダム」
ブランドンは、半音高い高揚した声で名残惜しさを滲ませ、立ち上がって表まで見送ろうとするのを、アダムがやんわりと制する。
それでもゴリ押しするようにして、出入口まで付き添っていた。
「ちょっと、兄さん。何をそんなに興奮してんだよ」
「これが、興奮しないでいられる?凄まじい魔力だよ。どうして聖殿は、あんなにも素晴らしい人を手放すんだろう?彼ならマーロン様の右腕に……いや、聖魔導士にでもなれるかも知れないのに」
「そんなに?」
「それだけじゃない。あんなにも美しい人を、生まれて初めて見たよ。ホワイト・シルバーの髪に、セルリアンブルー瞳は宝石のようだった。体も、鍛え上げられた屈強な筋肉で……」
ブランドンが耳まで赤く顔を染めているのを見て、ギルバートはゾワリと鳥肌が立った。
兄のそれは、まるで恋する乙女ような瞳だった。
これまでは、『自らの力を私的に使わない』と、魔導士として正しく生きて来た兄だった。
その崇高なまでの精神は、聖殿で培われたものである。
そんな清廉なブランドンが、初対面の相手に対して治療でもないのに透視して、服の下まで見透かしているのには、まるで人格が変貌したかのように下劣になった気がした。
「兄さん。治療しに来た人じゃないのに、体を透視するのはちょっと……」
「そ、そうだね。失礼な事をしてしまった。でも、ギルが変な男に騙されているんじゃないかと心配だったから」
「変な男に騙されるって、俺は成人した男だし、剣士だぞ?そんじょそこらの男なんか、ボッコボコに出来るんだけど」
「ごめん。つい、ギルもジェレミーも子供のような気がしてしまって」
謝りながらも、ブランドンはまだアダムの出て行った扉の方を見つめ続けていた。
そんな浮かれる兄の横顔に、嫌悪感が湧き上がる。
ふと、ジェレミーがブランドンを毛嫌いするのは、こんな知られざる兄の側面を見たからだろうかと思ってしまう。
ジェレミーが潔癖過ぎるのか。
清らかで誠実だと思っていた兄に、裏の顔があるのか。
ギルバートは、初めてブランドンに対して猜疑の目を向けていた。
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