第一章・あなたと出会えたなら4ー②

「も、もしかして、アダムって皇族だとか、隣国の王子様とかじゃないよな?」


「……そんな筈がないだろう。こんな面を被る王子なんか、どこにいる」


「でも、エレンも何だか庶民的じゃないし。話し方も」


「エレンの見た目に騙されるな。あれで、私の何倍もヒーリングして来た古参の魔導士なんだ」


「こ、古参?!」


魔力は大体、思春期頃に発動すると言われているが、稀に幼い頃から使える者もいる。

そうした者達は往々にして、巨大な魔力を有していた。

魔力の桁が違うエレンと、魔力を封印される程の力を持つアダム。

二人は寄り添いながらも、流浪の魔導士として生きて来た。

尊大にも見えるエレンの方が年上に思える時もあって、二人は夫婦という関係を通し越したような、戦友同士のようにも見えた。


だが、アダムは自分の事をあまり多くは語りたがらない。

ギルバートが触れられたくない核心に触れると、話を逸らしてしまう。

気にはなりはしたが、ギルバートもそれを無理矢理に暴いてまでして、知りたいとは思わなかった。

そうすると、自然とアダムの鬼門が分かるようになって、そこへは触れないようになった。


「ギル!」


不意に呼ばれた方にギルバートが目を向けると、笑顔で手を振るブランドンの姿があった。

だが、弟と同席するアダムの姿を見た途端に青ざめ、大袈裟なまでに後退る。

魔導士の兄にしてみれば、また別の見え方がするのだろう。

恐怖すら浮かべるその表情には、あからさまな忌避感があった。


「ギル、この方は?」


「アダム・シャドウズさんだ。よくリリス亭に来るお客さんなんだよ」


「アダム、さん?」


「貴方が、ギルのお兄さんか。流石に似ているな。ギルの方が男らしい顔付きだが」


ブランドンは、まるで見定めるようにしてアダムを凝視していた。

だが、徐々にその強張った表情が和らいでいく。

アダムの何が、堅実なブランドンの心境を変えさせたのか。

もしや、魔力で意思疎通でもしたのか。

そう思わせる程に、ブランドンの表情は一変した。


最初は、あれだけ怪訝そうな顔付きだったのが、今ではまるで少女のように頬を染めている。

ギルバートは、弟達の親代わりだと自負する頭の固いブランドンの、そんな浮かれたような表情を見たのは初めてだった。


「アダムは魔導士だね。それも、かなり高位の」


「何故、高位だと思う?」


「私は、治癒を得意とする魔導士なんだ。だから、相手の怪我や病気の状態を見抜く必要がある。貴方は、その……とても魔力が強いし、美しい筋肉をしているね」


「頼んでもいないのに、透視したのか?」


「あ!すまない!弟が心配で、つい、どんな人かを視てしまったんだ。許して欲しい」


「……まぁ、俺のような見た目の男が傍にいたら、兄としては気にはなるだろうな」


「凄まじい魔力だ……。こんなにも強い人は、聖殿でもそうそういない。というか、マーロン様以外にはいないよ……」


ブランドンは、うっとりと見惚れるようにして甘い吐息を吐きながら、アダムに魅入っていた。

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