第一章・あなたと出会えたなら3ー③

「なぁ、ギルバート。どうやったら、ジェレミーは私に心を許してくれるかな?」


帰宅後、ブランドンはついに堪り兼ねたかのように、ギルバートへ相談して来た。

その日はたまたま、ギルバートの帰りが遅くなり、ジェレミーの方が先に帰宅した。

ブランドンが、弟達の為に張り切って夕食の準備をしようとすると、いつの間にか家を出て行った。


ジェレミーは、ブランドンと二人きりになりたがらない。

話が進めば、お説教になるのを解っているからだ。

ブランドンは、ジェレミーが剣士になるのを良しとしていなかった。

それは、ジェレミーの知能が異様に高く、文官として大成するだろうと見越していたからだ。


確かにジェレミーは天才気質なところがあって、運動能力に特化したギルバートと違って、文武両道だった。

特に勉学に於いては抜きん出ていて、幼児教育の間に全ての学問を理解していた。

それ故に、ブランドンは皇室が監修している文官の育成校へ進んではどうかと、再三、持ち掛ける。


ブランドンの、兄として本人の性質にあった仕事に就いて欲しいと願う気持ちは解る。

弟に、将来苦労させたくないという親心があるのも。

だが、ジェレミー強い程の信念の持ち主が、毛嫌いしている兄からの助言を聞き入れるとは思えなかった。


また、ブランドンもそれに引けも取らず頑固だった。

三兄弟の中で一番穏和だったし、物腰も柔らかでおっとりとしていたが、元来の生真面目さは魔導士ならではの正義感に溢れていた。


「兄さん、ジェレミーにはもう関わるな。あいつはまだ未成年だけど、精神的には自立してるよ」


「でもな……」


「兄さんが働いてくれるお陰で、自分が学校へ行けてるのも解ってるし、学費は働いたら返したいって言ってた。だからもう、あんまり縛り付けない方が良い」


「縛り付けるなんて、そんな……私はね……」


「兄さんとジェレミーは、違う人種なんだ。どっちが悪いっていう訳じゃない。だから、理解しようとしなくても良いんじゃないか?」


「ギル、私はジェレミーが心配なんだよ。だから……」


両親を早くに亡くしたからか、兄の過保護は普通の兄弟のそれを超えているように思えた。

堅実な生き方しかして来なかった無骨なブランドンは、弟が文官になるのこそが、人生最良の選択だと思っている。

ギルバートが説得しようが、折れる事はない。


だったらジェレミー自身、しっかりと自分の足を地に着けて剣士として生きていき、立証するしかない。

そうする事でしか、ブランドンを納得する方法はないと思った。

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