第一章・あなたと出会えたなら3ー①
ギルバートの朝は早い。
大体において、朝日が昇る前には家を出て、聖殿に向かう。
魔導士達が住む聖殿は、小さな町のようになっていて、中央の『本殿』と呼ばれる塔の周りに、魔導士やそこで働く人々が住居を構えている。
だが、ギルバートは聖殿に程近い下町に住んでいたので、家から通っていた。
そうした朝早くの出勤でも、テーブルの上には毎朝、朝食が用意されている。
兄のブランドンは治癒士として家で仕事をしながら、家事の一切を引き受けていた。
早くに父母を亡くしたのもあって、ブランドンは親代わりとして、ギルバートとジェレミーを育てた。
それでも、ジェレミーは頑なに兄を認めようとはしない。
その強固な態度にもめげず、世話をし続けるブランドンを見て、ギルバートは諦めすら感じていた。
この二人は、根本的に合わない。
ジェレミーが学校を卒業したら、実家を離れる方が恐らくは互いの為になる。
ギルバートが家を出ると言えば、ジェレミーは迷いもなく付いて来るだろう。
成績の良いジェレミーは、自分の配置先の希望を申し出る権利が与えられる。
弟は、間違いなく聖殿での勤務を希望する。
近頃は、そんなジェレミーと合わせて、卒業と同時に転居申請書を出し、兄弟で家を出ようかと思うようになった。
ギルバートが警備する聖殿の本殿では、年若い魔導士が力の使い方や、魔導士としてあるべき姿を学び、力を人々の為に使うように指導される。
警備とは言っても、何年も厳格な秩序を叩き込まれている魔導士は皆、善良であり、騒ぎを起こすような者はいない。
どちらかと言えば、そこで働く力を持たない一般人が、盗みなどの悪さをしないかを見張っているようなものだ。
本殿は、その建物や調度品の全てが文化財に等しく、ギルバートのような剣士はあちこちに配置されていた。
「やぁ!ギルバート!朝も早くからご苦労さん」
「おはようございます。マーロン様」
聖殿の最高権力者、マーロン・クライストは、まさに現存する魔導士の中でも、最強と言えた。
癒しの力や、火・水・風魔法なども使える万能タイプであり、魔導士としては過去最高の実力者だと言われている。
その容姿も、魔力持ちに相応しい長い白髪に白髭は神々しく、威厳がある。
剣士として鍛えられたギルバートと並んでも遜色ない肉体は、彼をより年若く見せたし、その相貌も高貴な麗しさがあった。
ただし、その軽薄な口調さえなければ。
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