第一章・あなたと出会えたなら2ー③
「残念ながら、我々には身分を証明するものはない」
それまで会話に入ろうとしなかったエレンが、初めて口を開いた。
食堂に来ているのに、水以外にエレンの前には何の料理も並んでいない。
それには、ジェレミーも突っ込んだ。
「貴女さ、ここは食堂なのに、何も食べない訳?」
「今、食欲はない」
「だったら何をしに来た訳?ここの店長とは知り合いみたいだけど」
最早、ジェレミーの突っ込みは、単にいけ好かないから絡んでいる他にない。
昔から、ジェレミーはギルバートが仲良くしようとする相手には、やたらと好戦的だった。
まるで兄を取られると思っているかのように威嚇し、牽制する。
最近、それがより過剰になったその執着には、ギルバートもどうしたものかと頭を悩ませていた。
「おい、ジェレミー。食べようが食べまいが、人の勝手だろう。アダムさんが食べてるんだから、金は払うんだろうし」
「ギルはもう少し危機感を持った方が良いよ。男のくせに、やたらと男に絡まれるしさ。天然のタラシっていうか」
「天然のタラシって何なんだよ」
「こないだも、斜向かいの服屋の店長に声掛けられてたよね?」
「別に近所のよしみで、晩飯に誘われただけだろ?」
「あそこの店長、三回も結婚してる優男だよ?この女が少ない世界で!」
「女好きなら、尚の事、男の俺に興味ある筈がないだろうが」
「あーもう!解ってるないなぁ!『男』だから問題なんだよ!まさか、聖殿でも変な奴に迫られてないよね?も~う、僕も早く卒業してギルの護衛に付きたい!」
「護衛に付く護衛って何だよ。まるで俺が無能な奴みたいだろ」
これでも、同期に入団した中では、1、2を争う腕前の剣士だと自負している。
こうして高待遇の配置を望めたのも、ギルバートが優秀だったからだ。
それでも、兄馬鹿のジェレミーは尚もアダムに突っ掛かった。
「とにかく!得体の知れないあんたみたいな人は、ギルに絡んで欲しくないの!分かった?」
「では、貴殿のいないところで、ギルに話し掛けるとしよう」
アダムは、ジェレミーの腹立ち紛れの難癖にすら歯牙にも掛ず、パスタをクルクルと巻いてはスプーンで口へ運ぶ。
その器用さに見惚れてしまう。
ギルバートは、どちらかと言えば初対面の人間には、まずは疑ってかかるタイプだ。
なのにアダムから気安く『ギル』と呼ばれて、拒絶感もないどころか、何やらこそばゆいような気がするのは何故だろう。
嫌だと思う感覚はまるでない。
普段なら、こんな曰くありげな頭蓋骨男に目を付けられたら、忌避感しか湧かない筈なのに。
それどころか、親しくなりたいとすら思う自分がいる。
どうしてそんな感情が湧き上がるのか、ギルバート自身も理解出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます