第一章・あなたと出会えたなら2ー①

ジェレミーは骸骨男を見るなり、胡散臭げに眉をひそめた。


「頭蓋骨ってあれ、『封印』じゃない?実際に見た事はなかったけど」


「封印……」


「魔力を暴発させたりとか、能力の限界を超えた罪人に、科せる首輪っていうか……」


魔導士が魔力を欲望のままに使えば、封印される。

それは見た目にも明らかに、普通の生活を送るのが難しくなる程の、醜い容姿にされると噂されていた。


小声でギルバートへ囁くジェレミーの肩を、ポンポンと軽く叩かれる。

背後には、頼んだ料理を運んで来た店主のデズモンドが立っていた。

下町の食堂の主とは思えない涼やかな顔立ちに、ダークブラウンの長髪を一つに纏めている姿は、エプロンさえ着けていなければ皇族にも見える品格があった。


「彼は、罪人じゃないよ」


「えっ?聞いてた?」


「力が強過ぎるからっていうので制御されてはいるけど、アダムはあちこちを回ってヒーリングしてくれる、流れの治癒士だから」


「悪事を働いたから封印されたんじゃないの?」


「違うよ」


「でもさ、流れの治癒士って、聖殿と契約してないってだけで捕まる案件じゃない?」


「おい、ジェレミー、口が過ぎるぞ」


「まぁ、複雑ではあるんだよね、そこは」


デズモンドは以前、聖殿に所属する魔導士だったので、その内情にも精通していた。

魔力がなくなったとか、聖殿の長であるマーロンの逆鱗に触れたからとか、色々な噂が流れてはいたが、本人は「幼い頃から料理人になりたかったから」と公言している。


だが、聖殿に護衛として勤めているギルバートは、魔導士が簡単に辞められる筈がないのは分かっていた。

だから、デズモンドにはそれなりの過去があるだろうとは思っているが、居心地の良いこの場所を提供してくれているものを、わざわざ糾弾する必要もないと思っている。

そもそも、聖殿自身がデズモンドの転職を認めているのだから、部外者の自分がどうこう言う権利もない。

それは、骸骨の男アダムにも同様に言える事だった。


アダムと美少女は店内に入るものの、テーブルとカウンターテーブルのどこに座るか決めかねていた。

皆から向けられる怪訝な視線に歓迎されていないのを感じて、帰ろうかと踵を返す。

それをデズモンドが引き留めた。


「おーい!エレン!アダム!せっかく来てくれたのに、帰る事はないだろう?」


デズモンドがエレンの手を引いて、ギルバートとジェレミーの座るテーブルの向かい側へと座らせた。

そうして半ば強引に連れて来られても、美しい少女は表情を崩さなかった。


「エレン、久しぶりだな。他国へでも行ってたのか?」


「いや、田舎を回っていた。聖殿は、田舎へ魔導士をあまり派遣してはいないからな」


「そうだなぁ、もう少し田舎にも回した方が良いんだろうけど、今、絶対的に魔導士が少ないから」


「聖殿には山程いるだろうが。権力にばっかり固執する業突張りが。その中から何人か回せば良いのに、そもそも聖魔導士のマーロンが怠惰なのだ」


「エレン相変わらず男らしいね。また惚れちゃいそう」


「お前は相変わらず軽いな」


昔馴染みなのだろう、デズモンドとエレンは軽口を叩き合う。

 単なる居酒屋の店主と、超絶なる美少女との組み合わせは、この場ではかなり異質なものだった。

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