第一章・あなたと出会えたなら1ー③

ジェレミーはギルバートが勤める聖殿の事を、やたらと知りたがった。

卒業後は、自分もそこへの配属を希望するつもりだからだ。


「聖殿の一番偉い人って聖魔導士でしょ?これまでに最高の魔力を持ってるって言われてる」


「マーロン・クライスト様だな。白魔法を極限まで高めた御方だよ」


「さぞ高貴な御方なんだろうね」


「それが……とてもそんな人とは思えない、気さくな人でな」


「庶民的なんだ?」


「庶民的というか……飲み屋にいそうな、お節介なオッサンというか……」


「えぇぇぇ?!」


この世には、白魔法と黒魔法がある。

白魔法は人を癒やしたり、人に役立つ魔法とされている。

対して黒魔法は死者を蘇らせたり、人々の精神をコントロールしたり、錬金術などの道を外れた魔法を指す。


黒魔法を使う者は殆どいないが、もしもその力があると判れば、聖魔導士マーロンによって力を封印される。

現在、そうした全ての魔導士の頂点にいる男こそ、聖魔導士マーロンだった。


「確かにマーロン様は凄い人らしいんだけど、何かチャラいんだよな」


「……何かされたの?ギル」


「何かされたって……まぁ、会えば絡んで来られるっていうか。相手すんのも面倒臭いっていうか」


「それって、性的に嫌がらせされたり、働き難いように仕向けられてるって事?」


「性的って、お前ね。まだ未成年のくせに……」


「僕が未成年だとかは関係ないよ!もしもギルが何かされてたら、たとえ聖魔導士だとしてもボッコボコに……」


その時、騒がしい店内が一気に静まり返る。

皆が一斉に目を奪われるような客が、店に入って来た。


フードを深く被った少女は、絹糸の銀髪をしていて、大層愛らしい顔立ちをしている。

藤色の瞳に、薄桃色の小さな唇は、どこかの姫君のような品格すら窺えて、こんな下町には似つかわしくはない。

その高貴な美貌は、辺りの視線を一身に受けていたが、何の関心も無さげなまでに無表情だった。


連れの男の方はかなりの大柄で、一見、剣士のようにも見えるが、その腰に剣を携えてはいない。

全身黒尽くめで、その首には髑髏が乗っていた。

顔だけを覆う面というよりは、頭髪が頭蓋骨から生えているようにも見え、まるで死霊が生き返って来たかのような、おおぞましさすら漂わせている。

その頭髪は絹糸のように真っ直ぐな銀髪で、胸元に掛かる程に長い。

鍛え上げられた筋肉質な体付きは妙に生々しく、そんな生気のない頭部であっても、男には妙な人間臭さがあった。

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