第一章・あなたと出会えたなら1ー①
ダントニオ皇国。
北は海に、南は山に囲まれ、自然に恵まれたその国は、国民の生活もまた豊かであった。
それは、絶対的な権力を有する皇族が統治し、能力のある者がダントニオ皇国を纏めているからだ。
その機関こそ『聖殿』である。
ダントニオ皇国の国民は、思春期までにある一定数の人間が、『魔力』に目覚める。
目覚めた者は聖殿へと奉公が決まり、そこで己の能力を高めつつ、超能力を持つに相応しい人格者へと育成される。
また、個人的に身体能力が高い者は、剣士団で剣術を学んで剣士となり。
知能の高い者は、国が運営する学校へと入学し、その頭脳で国へと貢献する。
継ぐ家もなく、才能もない者でも、様々な国の機関で就労出来るように、専門学校で学ぶ事が出来る。
全国民の生活が保証されているダントニオ皇国は、物理的にも精神的にも満たされた国ではあったが、難点としては子宝には恵まれなかった。
女は国民の10%しかおらず、男でも出産出来るものも20%に満たない。
いわゆる『女体化』する男児は、魔力の目覚めと同じく、思春期には下腹に『淫紋』が現れ、子宮が機能し始める。
18を過ぎても結婚の兆しがない者には、国が責任を持って優れた才能を持つ相手と娶せる。
だが、国を上げて結婚を後押ししても、出産数は一向に上がらず、人口は年々目減りしていた。
ギルバート・ヴェンジェンスは、そんなダントニオ皇国の城下町の、とある商店の次男として生まれた。
だが、両親は13年前に流行り病で逝去し、突然に兄弟3人が露頭に放り出された。
タイミング良く、長男のブランドンに魔力が発現し、聖殿預かりとなる。
その恩恵により、ギルバートと弟のジェレミーも聖殿の近くに住まわせて貰い、高い水準の教育を受けられた。
聖殿での教育を終えたブランドンは、城下町に住まいを構えて、治癒士として人々の病気や怪我を癒やすようになる。
ギルバートは体力に自信があったので、剣士となった。
聖殿務めとなった今では、鍛え上げられた均整の取れた肉体に成長し、闘う筋肉を纏っている。
涼やかな面差しも男らしく、目尻は雄雄しく切れ上がり、禁欲的ですらある。
短く襟首を刈り上げた漆黒の髪は清潔感があって、その所作も庶民の出にしては気品があった。
対して、弟のジェレミーは兄のギルバートとは違い、その華奢な体付きから本来は学士の方が向いていたが、心酔している兄と同じく剣士を目指し、今は剣士団の育成校へと通っている。
そうして、三兄弟は互いの手を取って、仲睦まじく生活しているように傍からは見えた。
だがその実、長男のブランドンと三男のジェレミーの仲は険悪だった。
人々に尊敬される治癒士であるブランドンは、懸命に弟へ歩み寄ろうとするが、ジェレミーはそれを拒絶する。
『兄は偽善者だ』と罵倒し、忌み嫌っていた。
ジェレミーが、それ程に兄を嫌い始めたのは、ブランドンが聖殿での履修期間を終え、城下町に三人で住むようになってからだ。
二人の仲は日に日に険悪になっていき、やがてギルバートもフォローのしようもない程にギクシャクしていく。
手の付けられない兄と弟の不仲は、ギルバートの最大の悩みだった。
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