序章・あなたが生きる為なら ②

「不味い……出血し過ぎている」


「アダ……ム……」


「喋るな」


アダムは、ギルバートの裂けた腹に手を翳す。

そこから、白く丸い光が浮かび上がった。

流れている血が止まる。

そして、その部分から暖かな何かが体内に流れ込んで来るのを感じた。


「何を……したんだ?」


「私の血をギルの中に注いでから、傷を塞いだ。体質が合わなければ、拒否反応が出るかも知れない賭けだったが……違和感はないか?」


「ないよ」


「良かった……」


あと数分、出血を止めるのが遅ければ、命を落としていたかも知れない。

仮面の上からは分からなかったが、心底ほっとしているように思えた。


アダムは魔導士だった。

その引き締まった体格だけみれば、体を資本にする仕事に携わっているようにも見える。

魔導士ならば兄のブランドンのように、魔導士を統制する機関である『聖殿』に所属し、その命を受けて仕事に就く。

だがアダムは聖殿に所属してはいない、無所属の野良魔導士だった。


「動けそうか?」


「うん……、多分」


「まだ、傷が痛いか?」


「傷は痛くないけど、熱が出たみたいに、ぼーっとする」


「拒絶反応はないみたいだが、いきなり他人の血が入って、体が驚いてるのかも知れない。しばらくは無理をせずに休んでくれ」


「分かったよ」


「どんな奴等に襲われたか、覚えているか?」


「分からない。全員、黒いフードを被ってたし、見覚えもなかった。ただ、剣を持った事もなさそうな素人なのは分かった。……だったらそんなのにやられんなよ、って話なんだけどな」


「自分でいうか」


「不意をつかれたんだ。まともに対峙してたら、全員、俺一人で倒せてたよ」


「負け惜しみだな。まぁ、油断したって事にしておいてやろう」


「おい、俺は本当にあんな彼奴等なんか、片手で倒せる位に強いんだぞ!」


「家まで送ろう。まだふらつくんだろう?」


「くっそ!そこ、スルーすんなよ!どうせなら、バッタバッタと倒したところを見せてやりたかったのに!」


「今、脳内でそういう事に変換しておいた。だから安心しろ」


「それ、事実じゃないだろ!」


アダムの肩を借りて、ゆっくりと歩き出す。

このままずっと、こうしていたい。

そう思える程には、ギルバートはアダムに惹かれていた。

だがその感情が友情なのか愛情なのかは、ギルバート自身にも分からなかった。

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