あなたと共に死ねるなら

梅之助

序章・あなたが生きる為なら ①

それは突然だった。

ギルバートも、あまりにいきなりの事だったので、何が起こったのかも分からず、身構えられなかった。

降って湧いたように現れた大勢の暴漢に襲われ、気が付けば腹に刃が刺さり、鮮血が吹き出している。

何年も剣士として鍛えて来たギルバートは、よもや自分がこんな烏合の衆にやられるとは思ってもなかった。


暴漢達は命まで奪うつもりはなかったのか、その出血の多さに狼狽し、逃げ出した。

庶民として生まれ育ったギルバートには、誘拐する価値も殺す意味もない。

剣士としてそこそこの給料は得ていても、資産は平民の域は出ていないし、地位もない。

もしも誘拐目的なら、狙われた理由が女であるか、まだ子供を産める女体化した男であれば解る。


この国は、子供が産める人間が圧倒的に少ない。

だが、人類の生き延びようという本能がさせるのか、ある一定の割合いで男でも子宮がある人間が生まれる。

そうした子供を産める人間は、男であっても重宝された。


だが、『完全なる男』であるギルバートは、子宮を持って生まれた訳でもない。

なのに、何故襲われたのか。


「俺……このまま死ぬのかな……」


せめて、弟のジェレミーが一人前になるのを見届けたかった。

兄のブランドンは、治癒士としての魔力もあるし、魔導士の組織に守られているのもあって、この先、生きていくに困る事はない。

だが、ジェレミーはまだ就学中の未成年ではあったので、せめて職に就くまでは見守ってやりたかった。


「ジェレミー……俺が死んだら、墓の前で、文句言いまくる、んだろう……な……」


ジェレミーは、女の子のように優しげな面差しでありながら、口から吐かれる言葉は恐ろしく攻撃的だった。

治癒士として、神のように崇められている人格者の長男ブランドンにすら毒を吐く。

だが、どういう訳かギルバートにだけは懐いていた。


もしも、あの家から自分がいなくなれば、性格的に相容れない二人は決別してしまうだろう。


段々と目の前が暗くなっていく。

視界が閉ざしてしまう直前、見覚えのある『頭蓋骨』が目に入った。


「ギル!大丈夫かっ?!」


「……アダム……」


「死ぬな!私が、絶対に助けてやる!」


いつも通う食堂で出会った、髑髏の面を被った謎の男、アダム。

大柄な鍛え上げられた肉体に、不気味な髑髏の顔には、誰もが遠巻きになる。

だが彼が、そんな見た目にも関わらず、正義感に溢れる男であるのを、ギルバートはよく知っていた。

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