第5話 竹細工のおじいさん(見事な腕捌き)(小学生時代)
低い石垣を隔てて隣家があり、有川さんという初老の人が孫と住んでいました。有川老人は桶のタガを作る職人でした。 長い竹からタガの材料を採るために路上で作業をされることが多かった。
座ったまま、両足で長い竹を抑えた後、竹の先端(’裏’)にナタ様の道具(以後’ナタ’)で割れ目をつけ、それを梃子としてはさむ。 梃子を両手でつかみ手前に引いて竹を割った。’竹を割ったような性格’という言葉のもととなったように、竹は真っ直ぐに割れました。
トントン、バリッ、バリッ(間をおいて)トントン、バリッ、バリッと竹は割れてゆきました。 途中、竹の節の抵抗で割れにくくなると楔の役目をするナタを少しこじってから小づちでその両端を叩き割進めました。トントン、バリッ、バリッ。 割れる音が耳に心地よく、竹が割れるさまも見事でした。おじいさんは、十字型に組み合わせたナタも持っていて、それを使えば一度に4本の竹が出来ました。さらに細い幅に割った竹は、皮と身に剝ぎ分けました。これも繰り返し作業で、最後は薄い竹ヒゴになりました。よく曲がるしなやかな竹ヒゴができました。おじいさんはそれでタガの輪を編みました。随分手間のかかる作業でしたがどの工程も面白くて、飽かずに見ていました。
現場の
子供達も、よく路上でキャッチボールしたりバットで打った球を追って遊びました。
ある時、仲間とたまたま拾った竹の輪を投げて遊んでいた時その輪がそれて、仕事に集中している老職人の頭に当たりました。彼は驚いて「誰だ!」 と怒鳴りました。 日頃塀越しにこの声を聞いていた私は覚悟を決めて近寄って「すみません。わざとではありません。許して下さい。」と謝るつもりでした。当然、「気をつけんか、ここで仕事しているのはわかってるだろ!」というお叱りを覚悟していましたが、彼の言葉を聞いて愕然となりました。彼は私を認めると,、落ち着いた声で、「ああ、坊ちゃんでしたか。驚きましたよ。気をつけるんだよ」と柔和な態度で言って許してくれました。その静かな物言いは私には卑屈な態度に写ってその心を悲しく思いました。ですが、おじいさんの年を過ぎた今思えば、それは私の思い上がりで、実は〈子供のしたことだ。隣同士の知り合いとの間に波風を立てたくない〉という大人の判断から来た言葉に思われてなりません。
おじいさん、すみませんでした!あの日の子供をお許しください。
(第5話 おわり)
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