第7話 無駄な仕掛け

 なんらかのハラスメントに抵触するであろう問答を終え、ようやく第二の門にたどり着く。ここにたどり着くまで、何人の兵士とすれ違っただろう。廊下の両脇に数百人も兵士を並べる意味はわからんが、この世界は意味がわかる物のほうが少ないし、もう何も考えないようにしよう。


「一二三殿、この扉を開けるにはパズルを解く必要がある」


 あっ、ここにきてようやくゲーム性が出てきた。絶対ここで出すようなギミックではないと思うけど、退屈だったからちょうどいいや。


「ルールはご存知か?」

「…………ええ、よく知ってますとも」


 なんで……なんで数独なんだよ。これを解いて扉が開く原理もよくわからんし。

 まあ、別に嫌いじゃないからいいけど。


「あの、これってメモとかは……」

「メモ? 一体なんの話だ? 具体的に説明してもらえるだろうか? 説明書を所望しているのか? それともメモというのは、かつてこのパズルを解いた者達が残した物を指すのか? あるいは……」

「いや、数字の候補を……」

「ふむ? 数字の候補というのはどういう意味だろうか? 申し上げづらいが、いまいち貴殿の話は要領を得ない。パズルの前にコミュニケーションの基礎を学ぶべきではないだろうか? あいや待たれい。この廊下にいる兵士を全員招集して、貴殿に会話術を伝授するか否かを議論させていただく」


 おかしいな、俺そんなに変なこと言ったかな? ほら、数独って数字を絞って解いていくパズルじゃん? スマホのアプリとかだったら、候補の数字をメモできるじゃん? 俺はただ、それを求めているだけなんだが……。

 まあいいや、議論してるコイツらを無視して数独を解くか。大した難易度でもないいし、メモ無しでも解けるだろ。


「えーっと……ここは六か七の二択だから、そうなると……」

「勇者というのは、冒険を通して成長していくものだ。コミュニケーション能力も冒険を通して成長するべきでは?」

「あっ、数字被ってる。やべっ、こうなってくると面倒なことに……」

「基礎ぐらいは冒険に旅立つ前から叩き込むべきではないか? 成長する前に死んでしまっては元も子もないぞ」

「えーっと……」

「しかしコミュニケーション能力というのは一朝一夕で身につくようなものではないというのが一般的な見解であり……」


 あーもう! うるさくて集中できねぇ! その無意味な議論は遠くでやれよ!

 とりあえず数字が被った以上、一からやり直すか。おそらくそっちのほうが結果的には早いはずだ。

 やり直し含めて二十分。かなり手こずってしまったが、なんとか数独を完成させることができた。


「と、解けた……。解けましたよ!」

「言葉の通じない魔族との戦いでコミュニケーション能力を育むことができるのだろうか?」


 まだやってたのかよ、コイツら。本当に兵士かよ。

 言うまでもないが、完了報告は聞き入れてもらえなかった。結局、この兵士共が議論を終えるまで三時間ほど待たされた。


「むっ、この鍵を開けるとは中々やるではないか」

「……二時間以上前から解けてたんですけどね」

「何を言ってるかわからないが、次の鍵はこれだ」


 まだあんのかよ、パズル。うわ、この人らまた議論始めたよ。これ早解きしても意味ないヤツじゃん。

 ちなみに次のパズルはピクチャークロスワード、通称ピクロスだ。四十かける四十とは、中々凶悪だな。まあ、どうせ議論が長引くから早く解いても仕方ないんだろうけどさ。


「うわ、小さい数字ばっかでやりづれぇ……」

「魔族と人間、共存の道はないだろうか?」

「ゼロとか四十があれば楽なんだけどな」

「魔族を打ち倒した場合、人間同士の争いが始まるのではないか?」


 なんでこいつら俺の真後ろで議論するんだろ。しかも議題変わってるし。

 ピクロスを解いた後は詰将棋、クロスワード、知恵の輪など、多種多様のパズルが待ち受けていた。言うまでもないが、解く度に議論が挟まるので、この門をくぐる頃には三十時間が経過していた。初戦闘にここまで時間かかるゲーム、聞いたことないぞ。これもしかして、ゲーム部分が粗雑だから別の部分で尺を稼いでいるのでは?

 それにしても現実世界の俺の体は無事なのだろうか? 排泄物とか垂れ流しになってんじゃないか?


「一二三殿、我々の案内はここまでです」


 ……案内?


「えっと、もう王様にお会いできるのですか?」

「いや、次は迷宮に入っていただく。地図があっても困難な複雑さを誇っているが、ここまでたどり着いた一二三殿であれば、一人でも突破できるであろう」


 おい、むしろこここそ案内してくれよ。さっきの門は一直線だったし、パズルの解き方も教えてくれなかったじゃん。

 ……帰りたい。先輩が作った迷宮とか、絶対に挑戦したくない。


「食料や回復アイテムはところどころ落ちているので、心配は無用だ」

「あっ、そうなんですね」


 ……食料が必要なぐらい長いの? っていうか回復アイテムって何? ダメージ受ける機会があんの? 迷宮といっても城内だよな?

 右手法でなんとかなるかな? ならないんだろうなぁ、きっと。さっきのパズルも後半は総当たりせざるを得ないレベルの難易度だったし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る