第2話 無駄なモノローグ
おー、これがVRか。リアルというか、没入感が凄い。本当にゲームの中に入り込んだみたいじゃん。まだタイトル画面だってのに。
あれ? なんか知らん間に剣を手に持ってるんだが? えっと、この部分は柄っていうのかな? 宝玉らしき物とか、ヘビっぽい生き物とか、とにかく装飾がゴチャゴチャしてる。持ちづらいんだけど! 刃にもよくわからない文字が掘られてる。それより形と色おかしくね? なんかグニャグニャに曲がってるというか、枝分かれしてないか? この形状で鞘に収まんのか? 色もゲーミング仕様で目がチカチカする。
『剣を振ってください』
あっ、剣に気を取られて気づかなかったけど、なんかメッセージ出てる。これはアレだな。よくある『PUSH Aボタン』的なアレだ。
とりあえず大人しく従っておこう。っていうか重っ! VRすげぇな、剣の重みまで感じるぞ。
あっ、なんか選択肢が出てきた。
・ニューゲーム
・冒険を記録するためのセーブファイルを作成
・冒険を記録するためのセーブファイルの名前を変更
・冒険を記録するためのセーブファイルを削除
・オプション(オーディオ)
・オプション(操作感度)
・オプション(言語選択)
・オプション(ゴア描写のON、OFF)
・クレジット
・作者からのお礼のメッセージ
無駄に多いな! もう少しまとめろよ! オプション一つでいいだろ! 分岐はその後だろ! 一番下のもいらねぇよ! 二十年くらい前のフリーゲームかよ!
「……お礼のメッセージを見てみるか」
眼前に浮かび上がってる文字をタッチしてみる。
……あれ? 反応しないぞ? なんで?
と、五分ぐらい格闘したところで……。
「あっ、もしかして、剣で選択するんじゃ……」
もしやと思い剣を縦振りしてみた。すると、一番上のニューゲームが選択された。
『セーブファイルを作成してください』
め、めんどくせぇ……。っていうか、カーソルをズラすにはどうすればいいんだ?
「横振りかな? あっ、いけた……」
なんて面倒なシステムなんだ。横振りするたびにカーソルが一つずつ下に行くぞ。
ああ! 行き過ぎた! 一つ戻る時はどうすんだよ!
横振りの向きを変えてみたが、カーソルは下に下がるだけ。なんて無駄なシステムなんだ。UIが不便すぎるぞ。
「ああ! 横振りしたつもりなのに、縦振り判定された!」
見る気のないクレジットを選択しちまったよ。よくよく考えたら、作者のメッセージも見る必要ないんだけど。
……黒背景にひたすら文字が流れてくるんだけど、先輩の名前しかねえじゃん。チーフプログラマーってなんだよ。一人なんだろ? チーフもクソもねえだろ。
あっ、3Dモデル担当とか声優の名前もちゃんと載ってる。そりゃそうか。
……知らん声優しかいないな。っていうか兼役多すぎだろ。一部、先輩が声を担当してるし。うん、キャラの名前とかネタバレくらったけど、全然気にならん。もう全てがどうでもいい。
スキップさせてくれよという一心で剣を振り回すが、早送りさえできない。
四苦八苦した後に、なんとかセーブファイルを作成することができた。面倒だが、ファイル名も変更するか。
……え、名前も剣で入力すんの? なんか一文字ずつ横並びなんだけど、まさかこれって……。
め、めんどくせぇな! 横振りで一文字ずつスライドさせて、縦振りで文字入力するシステムじゃん! 右振りと左振りでスライド方向を決めれるのが、唯一の救いだよ! あって当然のシステムなのに、ありがたみがすげぇよ!
「ひふみで良かったよ、本当に。比較的近い位置関係だから」
でもこれでようやくゲームが……。うわっ、キャラメイクまであんのか。
顔のパーツ細かいな! 眉毛の角度とか、コンマ一度ぐらいの細かさで調整できるじゃん。いや、良いシステムだよ? 操作が剣じゃなかったらな!
面倒だからデフォルトの顔でいくか。
あっ、職業選択とかはないんだ。ゲーム中に決める感じかな?
なんやかんやでゲームを始めることができた。現時点で一時間くらいは使ってると思うので、もう休みたくてたまらない。
あっ、モノローグが流れ始めたぞ。
『人類が二足歩行を始めて間もない頃、魔族が生まれ始めた』
やべえじゃん。それ対抗できんの? 言葉さえろくに話せないだろ?
『そもそも人類が二足歩行を始めたのは、脳の発達がきっかけである。食料などを効率良く運搬するためなのだが、その考えに至ることができる時点で、下等生物とは一線を画した脳を持っていることになる。人間の脳は、四足歩行をするには重たすぎるのだ。バランスを保つために二足歩行を始め、道具を使いこなすために爪を退化させた。爪の退化は勿論、二足歩行というのは戦闘力を犠牲することに他ならない。正中線を丸出しにしているのだから、戦闘の素人という他ないだろう。極端な話、四足歩行で戦う人間に急所攻撃をいれることができるだろうか? 大半の生物は戦闘において絶好のウィークポイントを足の間にぶら下げているが、それは四足歩行ゆえにできることだろう。そういった意味では人間の進化というのは中途半端と言わざるを得ないだろう。体温から精子を守るためとはいえ、二足歩行にあるまじき位置に……』
長い長い長い! 先輩が作ったゲームだってのがよくわかるよ! 人類の起源とかそこまで重要じゃねえだろ!
『私が思うに、尻に性的興奮を覚えるのは四足歩行の名残だ。四つ足で集団行動をすれば、必然的に眼前に尻がある生活が続く。長い時間目にするものを性淘汰の評価ポイントにするというのは中々合理的であり、この真理にたどり着いた私は生命の神秘というものに感動し、涙を零した。おっと、感涙という表現を使ったほうが簡潔な文章になっていただろうか? いいや、効率化すればいいというものではない。言葉というのは伝わればそれでいいのか? いいや、違う! 昔の人は言った。人間が動くのは情か金だと。情を動かすのは言葉だ。熱い言葉こそが、人の精神をゆさぶるのだ。だからこそ、大言壮語をぶっ放す口先だけのクズ男に騙されるバカ女が後を絶たないのだ。これは男女で右脳の使い方が……』
……スキップする裏技ねえかな。もう何を言ってるか全然わからんし、待てど暮らせど魔族の話が一切出てこないし。
『先ほど情という単語が出てきたが、情というのは中々厄介なものだ。聡いと角が立ち迫害される。私がまさにそうだった。凡人と共に生きるには、賢すぎたのだ。しかし、情が深ければそれはそれで足をすくわれる。賢すぎず、愚かすぎず。人情味を持ちすぎず、淡白になりすぎず。殺さず、殺されず。生きるというのは難しいと思わないか? いっそのこと、そんなことを考えずに済むぐらい馬鹿だったら、どれほど人生は楽だろう。しかし、私は自分の知力、思慮深さを誇っている。そのように生んでくれた親を恨むつもりも一切ない。天才には天才の、バカにはバカの、生まれ持った宿命というものがあるに違いない。私はそう信じて、己の高すぎる能力を駆使……』
このテストプレイって、大体何時間ぐらいやればいいんだろうなぁ。長期休暇の予定は特にないけど、だからといって無為に過ごすのはゴメンだぞ? 適当に理由つけて今日で終わりにしようかな。明日はどこにいこう。日帰りで温泉旅行とか……。
『私が大学院でしてきた研究は、人類史を大きく変えるものだ。しかし、研究というのは、世間の凡人共に理解されて初めて功を成す。丹念に研究に勤しんだところで、倫理観などというくだらないものによってお蔵入りにされるものだ。そもそも倫理観とは何かという話だが、それは要するに世間の声、風潮だ。凡人共がなんとなくレベルの浮ついた感性で物事の是非を判断し、多数派の感性が倫理となる』
ラーメン! ラーメンの食べ歩きなんてどうだ!? 俺はまだ若いし、少しぐらい塩分を過剰摂取しても大丈夫だろ。そうだ、思い立ったが吉日なんだ。胃が健康なうちに、食べたいものを食べ……。
『食というのは本来、生存に必要な栄養素を接種するためのものだ。美食家と呼ばれる生き物達は、私から見ればイートフェチに過ぎない』
偶然だろうけど、俺の思考とモノローグがリンクしたぞ。え、俺はイートフェチなのか? いや、なんだよイートフェチって。誰だって食べるのは好きだろ。っていうか、どういう経緯で食の話になったんだ? 魔族は?
『話は戻るが、二足歩行は外敵をいち早く発見するための……』
そこじゃないよな? 戻るのはそこじゃないよな? 今語るべきは、魔族が生まれたことについてだよな?
いつ始まるんだよ! ゲーム! 俺まだ、設定画面でしか剣を振ってねえぞ!
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