第32話、過去の真実
***
「うわ! て……あれ?」
目が覚めた玲喜は何故か城下町の裏路地に横たわっていて、慌てて体を起こした。
ゆっくりと瞬きする。
体を動かして刀の切先が刺さった部分を手で触ってみたが、怪我をしていなければ痛くも痒くもなかった。
ゼリゼがくれた指輪も無くなっている。
——どういう事だ⁉︎
白昼夢でも見せられていた気分だ。
だが、城外に出た記憶はない。
玲喜は何が起こっているのか理解が出来ずに周りを見渡した。すると逆光となって人影が近付いてくるのが分かって身構える。
頭上から覆い隠された衣装を見て易者なのだと分かった。
易者は乱暴に己のフードを取り除き、どこか呆れたように玲喜を見つめている。
褐色肌と黄色の瞳を持つ易者は、以前にゼリゼとラルの三人で出掛けた時に声を掛けてきた人物だった。
声音や話し方から推測して、少年だと思っていたが、曝け出された素顔は十八歳くらいの少女だった。
「だから気をつけてって言ったじゃないの。貴方の魔力があの人に渡ったら、この国どころか日本も消えちゃうわよ。その前にあの皇子様たちは守ってもくれなかったの? 何て役立たずな……っ! ああ、もう。こうなるなら初めっからバカップルに遠慮せずにアタシが貴方に張り付いてれば良かった」
癖っ毛の短い髪をかき混ぜ、独り言のように一気に囃し立てた少女は、腕組みをして玲喜を見下ろす。
「あの時の易者が……どうしてここに?」
状況が飲み込めない。
——本当に何が起こっている?
何をどう問いかけて良いのかも迷うくらいで、玲喜はただ呆然と易者を見つめるしか出来なかった。
それにフードを取った瞬間声と喋り方が変わったからまた驚きだ。
——何で声まで変わったんだ? こんな魔法もあるのか?
元々中性的ではあったが、見た目同様少女の声になっていた。
喋り方はどうとでもなる。本来は今のような口調なのだろう。
「とりあえず時間がないから必要なとこだけ伝えていく。アタシは元々日本にいた
「日本⁉︎ 妖? 霊体って、オレは死んだのか? ていうかセレナって言ったのか? アンタは誰なんだ?」
矢継ぎ早の質問に面倒臭そうに玲喜を見やり、少女は少し考える素振りをみせる。そして緩く首を振った。
「正確には今はまだ死んでないわ。あの人に、体から霊体を押し出されただけ。以前会った時に言ったでしょう? 貴方に二度目の死が迫ってるって。今のまま体から離れた状態が続くと、数日も経たない内に死んでしまうわ」
少女は一度言葉を切った。それからまた直ぐに口を開いた。
「それに、貴方の肉体には初めっから二つの魂が入っているの。元が双子で、二人で一つの肉体に共存していると言えば分かるかしら?」
「双子……二人で一つの体……、て、まさか……」
『一人というより、一つになった』
少女の言葉を聞いて心音が跳ねる。己の下っ腹に手を当てて、玲喜はジリルの言葉を思い出していた。
「そう。貴方の子も恐らくは同じよ。アレキサンドライトは王族を象徴する石でもあるけれど、古の時代から双子の守護石ともされているわ。だからなのか、貴方たちみたいな特殊な例を持つ人の瞳は、アレキサンドライトみたいに青と赤に色合いが分かれるのよ。互いの魂の色が滲み出る。因みに色で分けると貴方が青ね。その貴方が体から押し出されちゃったからもう一つの魂……赤が時期に出てくるわ。それが一番の問題。赤だけは外に出してはいけないのよ。セレナは貴方に伝える前に逝ってしまったから知らないのは無理ないけど……。あと、質問に答えれば、アタシとセレナは親友だったの。アタシは妖だから、見た目も年齢も声もいくらでも好きに変えられる。中身はびっくりするほどおばあちゃんよ。千年は生きてるもの」
「千年っ⁉︎」
易者の少女は腰を落として、動揺している玲喜に視線を合わせる。
情報量が多すぎて玲喜の脳内処理能力速度が追いついていない。それに追い討ちをかけるように、少女は言葉を連ねた。
「セレナも貴方の母……レターナも貴方と同じだったわ。貴方たちの魔力が桁外れているのも双子の魂が一つの肉体に共存しているせいなの。元々数値の高い魔力なのに、それが二人分になっているからね」
「え、セレナも? 母て……」
セレナと瞳の色が同じなのは玲喜自身も把握している。
母は消息不明としか聞かされていなかったし、日本で暮らしていた父すら記憶にない。
「貴方の生まれは日本じゃない。元々この国だった。付けられた名前はレキ・アルバート。それを喜一郎のいる日本にセレナが連れて行ったわ。そして貴方が十歳になった時だった。突然日本にやってきたレターナに貴方は一度殺されている。それを自分の命を使って、セレナが繋ぎ止めたわ。レターナが貴方を狙って二度と日本に追って来れないように、セレナはもう一つの自分の魂も使って、個人を限定した強力な結界を張った。ごめん、ちょっと酷い言い方をするけど許して。レターナにとっては貴方は邪魔な存在なの。貴方の中に眠っている兄、レジェ・アルバートだけが自分の子だと思っているからね。レターナはセレナの負のエネルギーから誕生した存在。だからレターナは負のエネルギーの塊のような女なの。良心のカケラもない。いえ、自分の半身だった良心さえ殺したのよ。そのレターナの負のエネルギーの力を受け継いだのがレジェ・アルバート。玲喜、セレナはレジェを押さえつけられるように、アクアマリンを使って貴方の命を繋ぎながら魂の露出量も弄ったわ。だから今までは貴方だけが表に人格として出ていられた。ここまでは何となく分かったかしら?」
突然、覚えていない母の事や知りもしなかった双子の兄の事、過去に一度殺されていた事、アレキサンドライトの瞳の真相など一気に聞かされても訳が分からない。
玲喜は固まったように口を引き結んでいた。
何が真実で何を信じたらいいのか、もう何から何まで意味が分からなかった。
もしこの少女の言う通りなら、セレナは病死では無く玲喜を助ける為に命を削って死んだ事になる。
実の母親と言われてもいまいちピンと来ないし、しかもその母に己は一度殺されていた。
兄が出て来ないように己がいる? 記憶も何もないのだから、何を思って何を感じればいいのかも今の玲喜には分からなかった。
それに血の繋がりがあったのは父の方ではなかったのか? なら喜一郎が養子にしたあの男は誰だ? 血の繋がりはなかったと言う事なのか? それよりも、負のエネルギーというのは何だ? 玲喜の記憶にあるセレナからはそんな物は一切感じられなかった。
目紛しいほどに玲喜が勘案するも、理解が出来ない。否、受け止められない。
喜一郎とセレナが大好きだった。
幼い自分を大切に育ててくれて、玲喜はとても感謝しているし今でも大好きで大切な人たちだ。
——セレナが俺の為に死んだ?
悪夢でしかない。そんな事実など玲喜に受け止められるわけがなかった。
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