第7話、事後

 マーレゼレゴス帝国では男でも子を孕む。

 少子化が進み廃退するしかなかった人類が自ら進化を遂げた。

 それ故に王族の血を残そうと十代半ばから男女問わずに、夜の相手をあてがわれる事が多かったが、特定の相手を作る気も結婚をする気もなかったゼリゼは、今までは欲を吐き出しはしても、相手の内部に子種を残すような真似はして来なかった。

 それなのに玲喜には自ら望んで子種を植え付けた。

 その意味を考えた時、ゼリゼは自嘲めいた笑みをこぼす。

 初めて他人に興味を抱いている。いや執着している。

 玲喜を独り占めしてしまいたい。孕んだのを理由にマーレゼレゴス帝国へ連れて行ってしまえばいい。胸中がそんな感情に苛まれていて、乾いた笑いしか出て来ない。

 玲喜と会って暮らし始めてからは、毎日新しい自分を発見させられる。

 これまでの生活を考えてみても、有り得ない行いばかりをしている自覚があった。

「……ル」

 玲喜が寝たまま言葉を発する。

「玲喜?」

 声をかけたが玲喜は微動だにしなかった。

「…………ラル、き……ちろう、セレ……ナ」

 ハッキリと名を紡いだ玲喜を、ゼリゼは体を硬直させて凝視した。

 その名前の一つは己の従者であるラル・マニアンスと同じ名だったからだ。

 日本へ転移する前に、ラルも異世界へ行った事があると話していた。

 もしそれが日本で、ラルもこの家に飛ばされたのだとしたら玲喜と顔見知りでもおかしくない。

 なのに玲喜はセレナの話しはしたがラルの話は一切しなかった。

 少し前にラルの名前を出した時の反応もおかしかったのも思い出す。

 玲喜が何かしらの特別な感情をラルに抱いていて、名を口にするのを躊躇っていたのなら? それならば納得がいった。

 ゼリゼの胸の内に黒々とした気持ちが広がっていく。

 玲喜が己と同じようにラルとも関係を築いていたのではないかと考えると、穏やかな感情ではいられなくなった。

「この感情は、何と呼べば良い……?」

 自身に問いかけても答えは出ずに早々に諦めた。

 頭の中を切り替えようと、ゼリゼは腰を上げる。濡らしてきたタオルで玲喜の体を拭いて後処理を済ますと、腕の中に玲喜を抱き込んで隣に寝床を確保した。

 起きた時、誰に抱かれていたのか思い知ればいい。眠れそうになかったがゼリゼは目を閉じた。

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