其の三
たかだか十数年しか生きていない僕だけれど、それなりに良いことも悪いことも経験したつもりだ。
子供は何も考えなくていいから楽だねと、職員室の前を通った時に談笑している先生達が言っていたのを小学生の頃に聞いた時、あぁ、子供というだけで馬鹿にされなきゃいけないのかと、憤りを感じもしたのだけれど、それは単に馬鹿にされたという感情よりも、何も考えなくていいと思われていることにショックを受けたのだと思う。
何も考えないで生きている人間なんているのか? そう、疑問をぶつけてやりたかった。でも、子供の僕が大人に口論で勝てるわけがないことくらい、流石に理解していたので、ゴミ箱に八つ当たりをして不貞腐れながら授業を受けていたことがある。
子供の闇は深く、大人が考えている以上に複雑だ。
大人は昔、子供ではなかったのか?
それとも忘れてしまっているだけなのか?
それとも忘れてしまいたいと思っているのか?
それとも本当に何も考えることなく子供時代を過ごしてきたのか?
それとも、僕らは皆五分前に創られたのか?
悩みなど誰でも持っているし、悩んでいない人間などいない。
悩みの深さは大人も子供も関係ない。
子供も悩むんだ。悩んで悩んで、そして、解決方法がないと知れば、自ら命を断つことだってある。
しかし、僕は幸いにも、これまで一度たりとも自殺を考えたことはない。
「――いや、でも、僕は死を考えてはいません」
目の前の少女の口から死というワードを聞き、なんだか走馬灯みたいにこれまで感じてきた不満みたいなものが想起されてしまっていた僕は、彼女のジト目に気づいてハッと我にかえる。
そして、幽霊と遭遇してから初めてスラスラと発言できた安心感により、少しだけ恐怖心が薄れた気がした。
「一度も自殺したいなんて思ったことないんですから」
先程の口振りからすると、彼女自身もこの『条件』とやらがいまいち曖昧な感があったようだし、どうやらその『条件』は『死』以外の何かなのではないだろうかと僕は提言してみた。
「それはないわ。『死』であるのは間違いない」
何故か自信ありげにそう断言した彼女だったけれど、その根拠は教えてくれなかった。
「まぁいいわ。何にせよ、折角来たんだもの、もう少し遊んでいけば?」
「あ、遊ぶって、何をして」
「そうね」
顎に人差し指を当て、うーんと逡巡する幽霊は、その人差し指に長い髪をクルクルと巻き付ける。
「あんたは見た感じ、運動は苦手そうだし、面白い話もできなさそうだから、――いいわ、それじゃあ身の上話を聞かせて頂戴」
幽霊は体育座りを解いて、足を伸ばしてドア脇のコンクリートの壁に寄りかかり、自分の隣を指差した。
隣に座れということだろうか。
「……」
自然と、吸い寄せられるようにして、僕はそこに腰を下ろしす。
「……取り立てて、面白い話ではないですけど」
「大丈夫、期待してないから」
笑顔で言われてしまうと、怒る気にもなれない。
「じゃあ、少しだけ――」
僕は、十四年間の人生を掻い摘んで、初対面の幽霊に聞かせた。
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