第2話「入学式前日の決闘」

 そして試験が行われてから一週間が経った。俺は推薦状によって入学が決まっていたので、そこまで苦労することはなかったが、それでもそれなりの実力なら備わっているつもりだ。そこで【最高メイジ育成学校】の校則によって全寮制であることから、エルシャの自宅にあった自身の持ち物はすべて宿舎に送り届けた。それを自分がこれから住まう部屋に移す作業に出る。俺が荷物をすべての配置を完了させると、そこに早速推薦状で入学を果たした女子が俺の様子を窺いに来た。


「どうもぉ? 私はエリカ・マーキュリーです。今日からよろしくね!」


「んぅ? いきなり何かと思いきや挨拶ですか? どうも。俺はヒョウマ・ディオローズです。よろしく」


「まさかエルシャ先生って子供がいたの? 信じられない⁉」


(いきなり勘違いされたな? こいつの相手をするのは面倒に思える。しかし、同じ推薦枠なら、それなりに実力はあるだろう)


 そんな風にエリカの立場を考慮した上で俺は彼女の扱いに気を配る。しかし、エルシャのことを知っているとは、何かしら繋がりがあるなら、この先で付き合うのも気楽で良さそうだった。


「俺はエルシャの子供じゃない。拾われた身だ。しかし、お前はエルシャを知っているんだな?」


「当然でしょ! だってエルシャ先生は有名な魔法講師だもん」


「ほう? まぁ、確かにそれも言えているな。俺に魔法を教えてくれたのも彼女だ」


「へぇ? それじゃあ貴方も侮れないわね? ま、これから気長に過ごしましょう」


 そうやって俺はエリカと仲良くなった。どうやらエリカは異性の俺でも平気で接触できる女子みたいだ。別に興味があった訳じゃないが、エリカの容姿は正直に言わせてもらうと美人に相当する魅力を持っていた。きっとこれから男子に目を付けられることがあるかも知れないと思われる。現時点の俺ではまだ彼女に惚れるほどに至っている訳じゃないけれど、いつか恋人に迎えても良いと思えるだけの魅力は持っていた。m俺をそこまで思わせる女子が存在したことに驚きを覚えるが、それでも自分はまだ彼女を選んだ訳じゃないのだ。ただ候補に加える程度なら相応しく思っても良いかも知れなかった。


 そして俺らは衝動に来ている。そこでお互いのことについて語り合っている最中だった。エリカと話し始めた時に出た話題としては、俺が身に宿していた【龍魂】について彼女に教えると、それに対してかなり驚いた様子を窺わせる。それほど【龍魂】の存在は希少であり、それを得た人間は格別だと言われているのだ。そこでエリカに向かって得意とする魔法を教えてもうと、俺からも同じように示した。


「へぇ? ヒョウマって氷魔法が得意なんだ? 私は基本的に水魔法の使い手だよ? 実力ならそれなりにある方だと思う」


「だったら後で魔力量のチェックをしたい。大抵の場合は魔力量によって実力が計れる」


「でも、実際は戦闘技能にだって実力は伴うわ。それを知った上で言ってる?」


「もちろんだ。しかし、魔力量で負けている魔導士は殆どの場合だと魔法の出力で負ける。それが基本だろ? 大体そこで魔導士が身体能力で勝つには【フィジカルスキル】が必要になって来る。あれは魔導士にとって希少とされているため、それを生まれ持つのは、稀にしかいないって話だ。けど、俺もそんな体質を持つ魔導士がいたなら、是非とも戦ってみたいぜ」


「ふーん? さすがに【龍魂】なら勝てるでしょ」


「まぁな。俺の目標は学内順位のトップだ。それ以外に目的はない」


「さすがに【龍魂】の覚醒者は違うわね?」


 そんな風にエリカが口にすると、そこで俺らのところにとあるグループがやって来る。そのグループはさっきから俺らの話を聞いていたようで、それが本当なのかを尋ねて来た。それに俺が正直に答えると、そいつらのうちの一人が喧嘩を売るような一言を吐く。


「良いじゃねぇか? それじゃあお前の実力が本物か確かめてやるよ。さっさと表に出ろ」


「はぁ? 俺に敵う魔導士とは思えない挑発だな? 良いぜ。相手してやるよ」


 そんな風に俺はそいつの喧嘩を買うと、寮内から出てから、すぐそこの広場で決闘が始まろうとしていた。そしてこの決闘を通して俺が有する実力は想定内を超えてしまうことになるとは誰も思わなかっただろう。俺の前に倒れる同級生たちは一体どんな思いで敗北するのかがこの場で明らかになった。


(相手は俺と同じ推薦枠の人間だ。そこに油断は禁物だと思えるが、ここで負けて学内順位のトップになんかなれるはずがない。勝つぞ? まず力を示すにはこの決闘が一番相応しいだろう……!)


 そんなことを考えながら、俺は魔力を全身に流すことで、いつでも魔法を発動させる準備は整えた。俺がこの場で負けるなどあってはならないのだ。俺も人間を相手に【龍魂】を使ったことがなかった。だから、今置かれている現状で発揮するのが適切だろう。


「それでは両者hじゃ位置に着け! これは一対一の真剣勝負だ。お互いに魔法を行使して相手を制した方が勝ちになる。準備は良いか?」


「「おう!」


(相手もスタートから魔力を全身に回しているようだ。やはり戦闘の基礎は出来ていると見た方が良い。しかし、最初の段階で魔力量が知られない程度に巡らせるのは魔導士にとって当たり前の行為であり、いかに先手を取って魔法の発動を急ぐかが鍵を握る!)」


 そして俺らはお互いの顔を見合わせながら、すでに準備が整った状態でどちらが魔法を先に発動させられるのかが競われる。俺はまず始めに展開させて行く魔法の選択は済んでいた。そこで俺の企みで言うと、先手を取るのではなくて魔法を遅れて発動するつもりだ。先手を譲ることで俺の魔法が見破られるリスクを避け、決闘を仕掛けて来た相手に向けてぶっ放すのであった。


「始め!」


「もらった!」


 相手が指先から電撃を放出する魔法を発動させた。それは見た限りだと【ボルトオカレーンス】だと思われる。この魔法は電気を発生させて相手に向けて流し込むことが目的だとされている。それを攻略する方法はただ一つに等しかった。それは俺の【アイスウォール】を発動させて両者の間に壁を作ることで遮るだけだ。そして電撃によって生じた亀裂に強烈な蹴りを入れて破壊し、そこから即座に【フリージングゾーン】を発動するだけである。これは周囲を一気に凍らせる魔法であり、その発動速度は凄まじい効果を生んだ。


「ぐぁぁぁあああ⁉」


「どうだ!」


 俺は相手を凍らせる部位を下半身に絞り、降参できるようにする。相手は冷た過ぎてすぐにでも降参しない限り、徐々に身体の温度が奪われて行き、最終的には凍死を招く恐れがあった。なので、俺に喧嘩を売って来た相手はすぐ降参することで命を優先させる。


「大したことなかったな? たかが【ボルトオカーレンス】なんて魔法で良く推薦状が出せたもんだ」


「早く溶かしてくれ! 冷たくて死んじまう!」


「安心しろ。氷結なら自在に操れる。凍結を解除させることぐらいは簡単だ」


「くそっ! 覚えてろよ!」


 俺が見せた圧倒的な実力差によって、周囲で見学していた同級生たちが思わず拍手を送って来る。それが気に入らなかったのか、負けた相手の仲間たちは舌打ちをしてからすぐにその場を立ち去った。よほど悔しい思いを舌に違いなかったのである。


「凄い! 辺りを一気に凍らせちゃうなんて! それでこそヒョウマだ!」


「別に大したことはしてない。これぐらいではトップは目指せないぜ?」


「それだけの余裕を持てるのは凄いよ! 尊敬しちゃうなぁ!」


(どうやらエリカにとってはかなり興奮させる戦いだったみたいだ。しかし、この程度では大した成績も取れない腰抜けに過ぎないだろう。この先で上手くやって行ける自信はあるのかね?)


 俺にしたら彼ではトップは狙えない一人になるのは目に見えていた。これで順位を上げられたなら、そこで彼の相手した奴らが大した魔導士でもなかったと言うことだ。しかし、そこで順位に関する評価は低いと俺は判定が下されえると予想をしたのであった。


 そして時間は過ぎて行く間で、エリカ以外にも友達が出来る。それも俺の周囲には女子しか寄って来ない結果に至り、彼女らはどう見ても自分に好意を示す奴らに思えて仕方なかった。


 まず一人目はヒメナ・ウッドグリーンと言って、樹木魔法を得意とする魔導士みたいである。彼女は一般枠からの出身だが、俺にしてみれば素直で特に拒む理由もないように思えた人物だった。なので、これからは仲良くして行こうと思ったうちの一人なのだ。


 そして二人目はリンカ・フレアミルトである。彼女もヒメナと同じく一般枠だけど、試験の時には炎魔法で多くの魔獣を倒していたみたいだった。ヒメナとは幼馴染であり、ずっと一緒に魔法の鍛錬を受けていた人物みたいである。それを聞いて俺はこの二人の鍛錬に付き合ってあげようと思わされ、なるべく高い学内順位に位置できる魔導士にすると決めた。


 最後に俺と同じ推薦枠のライネ・クリスティアと言う。彼女は魔法に才能を見出した上で推薦状が出た人物みたいだ。ライネが扱うのは雷魔法で、さっき決闘をして負かした奴よりも優秀である自信があると口にしていた。ライネにとって魔法は自分の生き甲斐であり、学内順位でも三十位以内に入れることが目標みたいである。そんな彼女を俺は応援したいと思っていた。なので、前の二人と一緒に鍛錬を積みたいと思う次第で合った。


 このように俺の下に来た三人は、どうやら見込みがありそうである。俺に掛かれば彼女らを強化させることは容易に出来てしまうため、この先でどれだけ順位を上げられるのかが楽しみであった。


 そんなこともあって俺らは夕飯を一緒に済ませた時点で、今日のところはそれまでにする。後は明日に行われる入学式を待つばかりであり、その先に待ち受ける授業に期待しながら過ごすのが良いと思っていた。


 次の日。俺は余裕を持って起床すると、時間になるまで魔導書に目を通して勉強に励んだ。俺にとって余った時間は有効に活用し、少しでも魔法に役立つ情報を仕入れて行くことが、トップに立つために必要な行いだと思っている。そして朝食になった頃には、食堂に向かって足を運んで飯を頂くのであった。


 そうやって俺が食堂まで来ると、そこで昨日の段階で知り合った女子と合流した上で一緒に食事を取る。メニューは毎食決まっており、それを食べ終えては、一旦学校に行くための支度を済ませに部屋に戻った。俺らは今日から入学式があって、それに参加しなくてはいけないのだ。なので、まずは制服に着替えてバッグに必要なものだけ入れるのであった。準備が出来たら俺は部屋から出て、四人を宿舎の前で待つ。そこで俺らは合流を果たすと、まずは一学年の教室まで向かうのであった。


 そして俺らが一学年が集う教室まで来ると、そこは規模が広い空間となっており、およそ一万人がそこで授業を受けるのだと言う。


「広いな? 一万人の生徒がここで授業を受けるらしい。俺らはこの人数で順位を争うことになる」


「そうだね? 私も負けられない戦いになるのは目に見えている」


「大丈夫だよ! きっと何とかなるって! 私たちは合格してこの場にいるんだから、そこまで心配することなんてないと思う」


「確かに言えてる。俺らで争うことになっても、その時はお互い全力で戦おう」


「「「「うん!」」」」


 そうやって俺らは来た生徒から順から席に着く。毎回座る席は変わっても可笑しくはないと、目前の教卓に立つ教師が説明をした。そこで俺ら座った席は前の黒板が良く見える場所である。しかし、実際だと各席にはモニターが設置されており、そこから黒板に書かれた内容が見られるようになっていた。それを見ながらでも構わなかったが、それでも俺らは前の方に位置することで教師の目に付きやすい場所を選んだのだ。


 そして時間になった。まず始めに朝の会が行われ、俺らに向けて担任を務める教師が各席に設置されたモニターに映し出される。そこに映った教師はまず一学年の生徒の前で自己紹介を施した。


「俺はレッドガン・ネバーナイトだ。今日からこの学年を面倒見ることになっている。俺が扱うのは主に炎魔法だ。しかし、教える内容に関してはどんな魔法でも対応できるので、是非とも積極的に質問すると良いだろう。お前らがこれから目指さなけれな行けないのは、四天王と呼ばれる学内でも最強に当たる生徒だ。俺の生徒であるのなら、頂点を目指す気で掛かれ!」


(凄い気迫……⁉ あれがエルシャに言っていたレッドガン先生か? 確か地獄の炎に匹敵する火力を誇るとされる魔導士だ。その実力は教師の中でも評議員のお気に入りとして大事にされている魔導士と言われている。彼の教えた生徒の中には序列二位に位置すると言う。彼に教えてもらえるなら本望だよ。彼から教わりたい魔法があるんだ)


 俺の魔法なら最大出力を発揮すれば凍結させられるだけの冷気が放てる。それが意味するのは炎魔法が相手でも凍らせて見せる冷気を誇っているのだ。しかし。レッドガン先生はそれ以上の火力が放出できる魔導士とされている。そんな人を超える氷魔導士は序列三位に位置するトウガ・スノーキングだけだ。彼は人類史上最強の氷魔法とされる【アブソリュートフリージングフロア】の使い手だと言う。さらに彼は別名【アイスオーガ】と呼称されていた。【龍魂】に並ぶ【オーガフォーム】を八十パーセントの解放に成功させた人物なのである。それが誇る冷気は一瞬にして辺りを凍り尽くすのだ。


 俺が目指す場所は彼以上の魔導士になるためだけにエルシャが与えた試練をこなして来た。それも身体機能を極限まで高める【龍眼】を覚醒させる修行にも身を尽くして来たのだ。しかし、未だにそれは開花せず、到頭この日を迎えてしまった。それを踏まえて俺はレッドガン先生よりではないが、有能な魔導士だと言われているミナギ・デストノア先輩を迎えることで、この【龍眼】に目覚めるための修行を受ける準備は出来ている。彼女はこれでも序列六位にランクインした魔導士だ。それなりに実力はあるのだった。そこで何で彼女を頼ったのかと言うと、その理由にもなるエルシャの教え子だったことが挙げられる。エルシャに拾われた時から噂には聞いていたが、彼女の得意魔法は無系統に分類されており、それを取得する難易度としては【王域クラス】なのだ。その名は【領域改変】と呼称されており、自身から半径三キロメートルまでの領域内に存在する物質を別のものに変換させる魔法になるのであった。変換する物質は土でも対象とされ、そこから建物まで形成できてしまうほどの魔法で知られている。空間魔法の中でも最強と呼称されるに至るのであった。


 俺はそんな先輩の下でお世話になろうとしている訳だが、彼女のサポートを受けるならエリカたちも一緒で構わないか聞こうと思っていたところである。彼女とは放課後になった頃を見計らって落ち合う約束をしていた。その約束は俺がトウガ先輩を超えるために必要な要素にも繋がるほど重要な意味を成しているのだ。

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