ドラゴンソウルの覚醒者

源真

第一巻

序章「ドラゴンメイジの存在」

第1話「ドラゴンに拾い育てられた男」

 俺は雨が降り止まない時期になって捨てられてしまう。それも魔法の掛かった箱の中に入れられた状態で、さらに雨に濡れないように施されていた。それぐらい丁寧に捨てた両親の身元は分からないけれど、一体どんな思いで捨てて行ったのかが俺にとって最大の謎出である。


「こんなところに捨てて行くとはな? まさかワシに託しているかのような行為だ。仕方がない。拾ってやるか?」


 そんな風に思って拾ってくれたのは、人外である上に生物の中でも最強と謳われた種族とされた【ドラゴン】だった。丁度俺の捨てられたところはそのドラゴンが住み家にしており、彼を恐れた人間は寄り付かないような場所である。そこで俺を拾ったドラゴンは大事に育ててくれた。だが、いずれそのドラゴンも俺の前から姿を消してしまう。


「どこに行ったんだ? 何で俺の前から消えたんだよ」


 俺は悔しかった。例え人が恐れて寄らない生物であっても、俺のことはしっかりと育ててくれたのだ。そんな育ての親が何で今更消えてしまったのかが分からないでいた。


 俺はいつしか住み家を離れてドラゴンを探しに行く。しかし、さすがのドラゴンでは街中には行くはずがないと踏んでいた。けれど、そこ以外にいく当てがなかったのだ、俺にとって慣れない場所だったが、それでも必死になって探した。


 しかし、見付からなかったのだ。そこで街の路地裏で空腹に耐えながらも座り込んでいた。すると、そこに一人の女性が声を掛けてくれる。


「ねぇ? もしかして一人かい? どうやら人を探しているみたいだけど、見付からなかったようだね?」


「お前は……?」


「私はエルシャ・ディオローズ。君の名前を伺っても良いかな?」


「俺ヒョウマ。信じられないと思うけど、俺を育ててくれたドラゴンがいなくなった。もうどうして良いか分からない」


「ほう? まさか君が噂の少年か? どうやら君が探しているドラゴンが消えてしまったなら、このまま一人でいても仕方ないだろ? 私と来ないか?」


「え?」


 そこでエルシャは俺を拾ってくれた。それもドラゴンが見付かるまでの間であり、もちろん探すのを手伝うこともしてくれると約束をしてからである。それを頼って俺はエルシャに付いて行ったのだった。


 それから七歳だった俺にエルシャが風呂に入れてくれる。それにはエルシャも一緒になって入って俺の裸を見た瞬間に彼女がそうした目的でもあることが判明した。


「やはりドラゴンとの接触があったのは本当のようだ。君には【龍魂】が宿っている」


「んぅ? その【龍魂】って何?」


「いわゆる【龍魂】とは、ドラゴンに干渉することで生じるとされている力のことよ。ドラゴンの持つ力を解放させる鍵になる魂だ」


「そんな力が俺にあるのか?」


「そうだ」


 そこでエルシャによって告げられたことによれば、俺には龍の力が備わっているみたいだ。しかし、そんな力に何の意味があるのかが、俺の疑問として生じる。けれど、俺がこれまでの話を告げると、エルシャはこの先で自分にあるべき姿を教えてくれた。それが俺に新たな希望になったのである。


「なるほど。ドラゴンから色んなことを教わったみたいだね? 言語まで君に教えてしまうとは、恐れ入ったよ。しかし、良い機会だ。これからはドラゴンを探すよりも魔導士になる道を歩みなさい。私が魔法について教えるから、是非とも付いて来たまえ」


「エルシャに?」


「あぁ、そうだ。きっと君の未来には相応しいだろう。信じてくれ」


(どうしよう……? 俺の前から姿を消したドラゴンを探さずに生きると言うのか? でも、このまま見付からないなら、エルシャに付いて行く他ないよな?)


 そんな風に思い立った瞬間に俺はエルシャと人生を共にする決断が出来た。俺の出した答えには新たな希望が生じる。それによって俺はこれからの人生に期待を込め、エルシャの提案を受けるのであった。


 そしてそれ以降の俺の人生には大きく魔法が関与する。初めて魔法を教わった時から俺には生まれ持った才能が左右した。それも俺が最初に教わっていたのは魔法ではなく、事前に持ち合わせていた【龍魂】によって強化された魔力を自在に操ることである。魔力の使い方によれば、身体機能を補助する作用があるため、その方法をエルシャから教わったのだ。魔力を集中させた部位を補う役割は非常に重要な意味を成し、魔導士にとって魔法を扱う上でも最低限必要だったと言われているらしい。それをいかに操作できるかが魔導士にとって強さを左右しているのだった。

 俺はエルシャによって鍛え抜かれることで、魔導士の道を歩んだ。丁度エルシャは魔法講師の資格を持っていたため、それを活用して知り合いの同僚にも指導を受けた。それによって俺の魔法技能は底上げされ、次第に手強い魔導士となったのである。俺はこの道を歩んで正解だったと今では思うようになっていた。


「うん。君は私の見込んだ通りの人材だった。これまでに積み重ねた経験が活きていると言える。この先は私が受け持つのではなく、魔法学校で学ぶと良い。そこで君は成り上がるんだ」


「はい! 分かりました! これまでの指導に感謝します!」


「よし! 君は魔法だけでなく、態度までも良くなっている。その調子で【最高メイジ育成学校】に行け! そこでは私から手は通しておく。推薦状を提出すれば、実技試験を通らずとも入れるはずだ。ま、試験を受けたところで落ちることはないだろうがな」


 そうやって俺は今度から魔法学校に通うことになる。そこにはエルシャにもらった名で通すことになっていた。俺はヒョウマ・ディオローズとして魔法学校の生徒になる決意を固め、さらなる試練を乗り越えるのである。


 十二歳を迎えた俺の向かった先はこれから通う予定でもある【最高メイジ育成学校】が建てられた敷地だ。そこは我が国でも一番とされる領地を誇っており、そこに通える生徒の規模は三万人に上るらしい。そこにはおよそ〇・一割にも満たない確率で推薦状が出される場合があり、それを俺は獲得していた。なので、俺の時は実技試験を受けなくとも入学が決まってしまっているのだ。


「ここか? 俺には最高の門出になるとエルシャは言っていたな?」


 そんな風に思いながらも、俺は校門の前に立った。その先には試験を受ける者たちが出入りしていた。今日はまだ入学式が行われる日ではないが、俺がここに来た訳は自ら進んで試験の様子を見るためだ。試験の受ける者はどれだけの実力を持っているのか、エルシャに尋ねてみたところによると、それぐらい自分の目で確かめるのが良いと言われたからである。俺の目的は試験を受けた志望者を見るためだった。しかも今回は正式にエルシャが手配してくれたお陰で見学に打って付けの場所が用意されているようだ。そこで俺は志望者の様子を観戦するのであった。


「ヒョウマよ。よく来てくれたな? ちゃんと見学の場は設けてある。こっちだよ」


「わざわざすいません。俺のためだけに場所を手配してくれるなんて。感謝の気持ちでいっぱいです」


「気にするな? 君はあのエルシャが育てた男だ。さらに【龍魂】を見に宿した者は我が校でも三人しかいない。【龍魂】を持った者が新たに入学してくれるのは嬉しいことだ。さぁ、ここが君の席だよ?」


「どうも」


 俺が来たところには、上層部に位置する【評議会】のメンバーが揃っていた。評議会とは当校の最高権力者として君臨する人たちで、エルシャとも密接な関係を築いていると言う。俺の噂もエルシャの口から伝わっているようで、評議員が言っていた通り【龍魂】を宿した者の育成にも尽力を注いでいると聞いていた。エルシャにしても俺を負かせるに適任だと言える人物みたいだ。


(これから始まるのか? 俺以上の人材も中にはいるかも知れないとエルシャが言っていた。しかし、本当にそんな奴が存在するのか?)


 俺には疑問だった。一般枠の中に俺と同等に渡り合える存在がいるのかと言うことにである。俺は今までエルシャによって紹介を受けた魔導士たちを見て来たが、自分に勝る人材はいなかった。そもそも魔力量が違っていたのだ。それが根本的に実力差を示し、俺に疑問が生じる原因にもなる。しかし、エルシャが言うには必ず俺を超える人材は現れると断言した。その一言を信じて俺はこの試験を見学しに来たのだ。それなりに楽しませてくれる人材がいることを願うばかりだった。


「始まるよ。今回の試験も以前と変わらぬ内容だ。これで合格できないものは入学する資格を与えられない。今年は一体どんな人材が入って来るのかが楽しみでしょうがないよ」


「そうですね?」


 俺にもその気持ちはあった。魔法を扱う者にとっては、この試験に惹かれない訳がないのだ。しかし、退屈させられるのであれば、俺がこの学校で頂点を取りに行くのもやむ得ないだろう。果たしてどんな結末に至るのかがここで明らかになるのであった。


 そこで一人の教師によって志望者たちに試験内容が言い渡される。それも内容はさっき俺を迎えてくれたルーク・フルグレイトが言っていた通りで、毎年のように変わっていないようだ。それは毎度行われる試験を知っている者なら誰もが分かったことだろう。そんな中で試験に挑戦する者たちは一体どんな戦いを見せてくれるのかが、俺にとって重要だった。


(ルールは簡単。空間魔法によって形成された敷地内に現れる魔獣を殺せばポイントの獲得となる。さらにこの試験はチーム戦で行われるため、仲間になった魔導士が倒れると失点に繋がる。そこで周囲の魔導士に矛先を向けるのも良いが、実際だとそれに意味はない。しかも中には一人では倒せない魔獣もいることから、チーム内で協力して挑むのが適切だと思われる。ここは程よく敵になった魔導士を減らして行き、その上で魔獣を狩る方が有利に立てるだろう。さて、どんな試験になるのかが楽しみだ)


 そうやって俺は試験内容を把握すると、早速志望者たちが会場でもある敷地内に配置された。もちろん仲間同士で固まるのは当然だ。だが、中には役に立たないお荷物も存在することから、この試験は運勢で左右される場合もある、そんな中で志望者たちはどんな魔法を駆使して臨むのかが期待できるのであった。


「始め!」


 そんな感じで試験はスタートした。一斉に志望者が動き出して、目の前に現れた魔獣を倒しに掛かる。いきなり高度な魔法で魔獣の相手をする者もいるが、その他にも役に立ちそうのない魔導士は見て明らかだ。有能な魔導士が誰なのかはすでに分かっている通りで、魔獣に向かって行くも逆に倒されてしまう奴も中にはいた。そこで呆れるほど活躍を見せない魔導士には、隣席でチェックを付けている評議員によってマークされるみたいだ。それがどんな魔導士なのかは俺から見ても明らかであり、この先でマークを付けられた人物には、後で判定落ちするのが決まっていた。


 そして試験も一通り済むと、丁度良いタイミングで終了の合図が出る。その時点で合格者の目安はすでに付いており、ここで開催された試験ではただ高得点を叩き出せば良いのではなく、評議員が認識した対象にしか入学の許可が下りることはないのであった。そこで志望者が全員同じ個所に集められると、早速合格者の発表が行われたのである。


「以上が合格者だ。中には多くポイントを獲得した者もいるが、評議員はすべてお見通しだった。そこで何の活躍も見せない奴には、残念だけど落ちってもらったよ。本当に栄光が与えらえる者は、しっかりこの見せ場で示している。文句があれば聞いてやるが、それを通すには実力が伴うものだと思ってくれ」


(当然だ。ここで成せない者はただの腰抜けしかいない。この判定は公平だった。そこで文句を通す奴なんかでは、話にならないのだ)


 俺の内心でもそんな風に思えることがあった。俺の見ていた中にも他者に頼って逃げ回ることで安全を確保する奴らが存在したのだ。そんな出来損ないがこの学校で上手くやって行くなどあり得ないと切り捨てるのが自然な行いなのである。しかし、俺を超える者はいないようにも思えた。俺が身に付けた魔力感知によれば、自分以上の量を成した者は存在しなかったのだ。それだけじゃない。魔法においても俺に勝ってい人材は残念ながらいなかったのである。俺が扱う魔法は【龍魂】によって強化されているのだ。魔力量の増幅が伴う上に現時点で解放できる【龍形態】は約三割である。これが意味するのは龍化させられる身体の部位が三割に至っていることであり、これを解放すると使用した魔法が通常よりも強化されるのが特徴だとエルシャからは教わった。それに俺が使用する得意魔法は殆どの場合は氷系統に分類されるものばかりだ。それに勝る人材はやはり【龍魂】を宿す三人と【ビーストアーマー】の使い手など挙げられる。【ビーストアーマー】に関する情報で言うと、召喚した魔獣を自身の一部として取り込むことで、武装している箇所を強化させる魔法であると聞いていた。それ故に【ビーストマスター】と学内では呼称されており、俺ら【ドラゴンメイジ】と互角に渡り合える人材みたいである。学内でも優秀な成績を収めている序列二位に位置すると言われているのだった。


「どうだったかな? 試験が見学できて何かしら興味が湧いた魔導士でも見付かったかね?」


「まぁ、正直に言わせてもらうといませんでした。俺に匹敵する魔導士は一人もいないと思われます。なので、俺が張り合える人材と言えば、四天王に数えられる先輩方だけでしょう」


「ほう? そこまでの自信があるなら感心だ。是非とも四天王のうちに食い込んでくれたまえ」


「はい。分かりました」


 そうやって俺は試験の様子を窺った訳だが、そこまで興味の湧くような人材はいなかった。しかし、この先でまだ可能性はあると思っているのだ。これからを楽しみにしているのが妥当に思えていたので、俺はこの先の学校生活に期待を込めることにした。

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