第29話 両面宿儺・嫡男の初陣
ある日、甲斐の国にて、まだ若き日の武田信玄(当時は晴信)の元に、駿河の今川義元に嫁いだ姉(黒沢あすか。『あすなろ白書』で自傷行為するキャラを演じる。『金田一少年の事件簿』の雪夜叉役)から大量の貝殻が贈られてきた。山国甲斐で育った信玄にとって、海の産物は珍しく、彼は貝殻の美しさに感銘を受けた。さらに、彼はこの貝殻をただの贈り物として見るのではなく、何か戦略的な教訓に利用できないかと考え始めた。
信玄は近習に命じて、贈られてきた貝殻の数を調べさせた。貝殻は2畳分もあり、その量は圧倒的だった。近習たちは困惑しながらも、一枚一枚丁寧に数えた。そして数日後、3700枚ほどあることがわかった。
信玄は貝殻の数を知ると、すぐさま家臣たちを集め、彼らにこの大量の貝殻を見せつけた。「お前たち、この貝殻が何枚あるか当ててみよ」と信玄は命じた。
家臣たちはその数を見積もりながら、次々に答えていった。ある者は1万5000枚、またある者は2万枚と述べ、それぞれがそれなりの自信を持っていた。しかし、どの答えも大きく外れていた。
その様子を見て、信玄は静かに笑みを浮かべながら言った。「皆、的外れだ。この貝殻は3700枚ほどしかない。それでも、これほどの広さを占めているのだ。」
家臣たちは驚き、信玄の鋭い観察力に感嘆したが、彼の言葉はここで終わらなかった。
「わしは、これまで合戦にはただ兵力が必要だと思っていた。だが、この貝殻を見て思ったのだ。兵の数が少なくとも、それを多く見せ、巧みに操ることこそ肝心なのだ。5000の兵を1万に見せることができれば、敵を圧倒できる。兵を数に頼るのではなく、いかに巧みに動かすかが戦の勝敗を分けるのだ。」
この言葉に、家臣たちは深く感銘を受け、末恐ろしい若君の才能を改めて感じた。彼らはこの教えを胸に刻み、後に武田軍が合戦で見せる華麗な戦略の根源が、この日の信玄の教訓にあったことを忘れることはなかった。
この逸話は、後に『甲陽軍鑑』にも記され、武田信玄の若き日の卓越した知恵と洞察力を物語るものとなった。
信玄(阿部寛)は昔を思い出しながら眠りについた。
木曽・下伊那・美濃恵那の平定
天文23年(1554年)、佐久郡や伊那郡・木曽郡に残されていた反武田勢力を完全に鎮圧して信濃南部を安定化させた。これと同時期に、三河・美濃・信濃の国境地帯に勢力を持つ美濃恵那郡の岩村遠山氏・苗木遠山氏の両遠山氏も信玄に臣従してきたために、美濃を支配する斎藤道三(大和田伸也)・義龍(濱田岳。ドンマイドンマイ、カズマル君)父子とも緊張関係を生じさせることになった。
天文23年(1554年)、武田信玄はその軍略と統治能力をさらに強化するため、甲斐国を基盤に勢力を拡大し続けていた。この年、彼は特に木曽・下伊那・美濃恵那地域の平定に着手し、信濃南部の安定化を目指した。
木曽国と下伊那国には、長らく武田家に反抗する勢力が潜んでいた。これらの地域は山岳地帯が多く、ゲリラ戦術を駆使する反武田勢力にとっては天然の要塞となっていた。信玄はこれらの地域を平定するため、精鋭部隊を編成し、周到な戦略を練った。まず、地元の民衆の支持を得るために、武田家の恩恵を広め、反抗心を和らげる政策を実施した。その後、夜襲や包囲戦を繰り返し、反武田勢力の指導者を次々と討伐していった。これにより、木曽・下伊那地域は武田家の支配下に組み込まれ、信濃南部全体の統治が一層強固なものとなった。
美濃恵那地域の統合
同時期に、三河・美濃・信濃の国境地帯に位置する美濃恵那郡では、岩村遠山氏と苗木遠山氏という二つの有力な氏族が存在していた。これらの氏族はそれぞれ独自の勢力基盤を築き上げており、信玄にとっては潜在的な同盟者としても、時には対立すべき存在としても重要な存在であった。
信玄は巧妙な外交手腕を駆使し、両遠山氏に対して武田家への臣従を促した。岩村遠山氏と苗木遠山氏は、信玄の圧倒的な軍事力と政治的影響力を認め、これを受け入れることにした。こうして美濃恵那郡は武田家の直下に組み込まれ、信玄の支配領域は一層広がった。
斎藤道三・義龍との緊張関係
美濃恵那郡の統合により、信玄は美濃国全域への支配を強化した。しかし、これにより美濃を支配する斎藤道三とその子・義龍との間に緊張関係が生じることとなった。斎藤道三はかつて美濃の独立を維持し、繁栄を築いた有能な大名であり、その勢力は今もなお強固であった。
信玄の美濃支配拡大は、斎藤家にとって自らの権力基盤を脅かすものであり、両者の間には微妙な均衡が保たれていた。しかし、信玄は対立を避けるために、斎藤道三との交渉を重ね、相互に有益な同盟関係を築くことを試みた。斎藤家もまた、信玄の軍事力を認めつつ、自らの独立性を保つために慎重な対応を取った。
信濃南部の安定化
木曽・下伊那・美濃恵那の平定に成功した信玄は、信濃南部全体の統治を確立し、地域の経済発展と治安維持に努めた。農業生産の増加や交易路の整備により、信濃南部は繁栄を遂げ、武田家の名声は一層高まった。また、信玄は地元の有力者との信頼関係を築くことで、内部からの安定も確保した。
このようにして、天文23年は武田信玄にとって重要な年となり、彼の統治能力と軍事的手腕が改めて証明された。信濃南部の平定は、信玄が後にさらなる勢力拡大を目指す上での基盤を築くものであり、武田家の黄金時代への布石となった。
結び
信玄のこの年の業績は、後に『甲陽軍鑑』に記され、武田家の戦略と統治の模範として語り継がれることとなった。彼の柔軟な外交と強力な軍事力の融合は、多くの戦国大名にとって学ぶべき教訓となり、武田家の繁栄を支える礎となったのである。
三条殿は、武田信玄の命を受け、密かに飛騨に潜入していた。信玄の策謀の一環として、飛騨の地での情勢を探り、可能な限りその地の勢力を掌握することが彼の使命だった。飛騨は山岳地帯であり、険しい自然が人々を守るかのように立ちはだかっていた。道中、三条殿はある噂を耳にする。古来、飛騨には「両面宿儺(りょうめんすくな)」という恐ろしい存在が眠っているというものだった。
ある夜、三条殿は山中で道を見失い、深い霧に包まれた洞窟に迷い込んだ。洞窟の奥からは不気味な風の音が響き、ひんやりとした空気が彼を包んだ。そのとき、突如として洞窟の中に巨大な影が現れた。それは両面宿儺、古代の鬼神であり、恐ろしい力を持つ存在であった。宿儺の体には二つの顔があり、それぞれが異なる方向を向いていた。一方の顔は冷徹な怒りを湛え、もう一方は冷酷な笑みを浮かべていた。
宿儺は洞窟の中に突如現れた三条殿に目を向けた。「貴様は何者だ。この地に足を踏み入れる愚か者か?」と、深い声で問いかけた。三条殿は恐怖を感じながらも、冷静さを保ち、答えた。「我が名は三条。この地を治める主の命を受け、調査に来た者だ。」
両面宿儺は少しの間、三条殿を見つめた後、静かに語り始めた。「この洞窟に来たのは偶然ではない。お前が来るのを待っていたかのようだ。私は位山に巣食う鬼神を討ち滅ぼした。奴はこの飛騨の地を脅かしていたが、私の手によって滅ぼされた。しかし、その代償として、私もこの地に縛られている。」
三条殿はその言葉に驚きを隠せなかった。位山の鬼神は飛騨の人々を長らく苦しめてきた存在であり、その力は凄まじいものだと聞いていた。だが、目の前にいる両面宿儺は、その鬼神を討ち取ったというのだ。
「貴様に一つ教えよう」と宿儺は続けた。「この力を使えば、貴様はさらなる強大な力を手に入れることができる。だが、その力は諸刃の剣だ。慎重に使うがよい。」そう言って、宿儺は三条殿に古代の秘術を授けた。その秘術の名は「パイシオン」。それは、強大な魔力を制御し、敵を圧倒する力を与える技だった。
三条殿は宿儺の教えを受け入れ、パイシオンの力を習得した。しかし、その力を使うには己の心を強く保つ必要があった。両面宿儺は最後に警告を残した。「その力を乱用すれば、貴様自身が力に呑み込まれる。だが、真の強さを持てば、この飛騨の地をも掌握できるだろう。」
三条殿は深い敬意を持ちながら、宿儺に別れを告げ、洞窟を後にした。新たな力「パイシオン」を手にした彼は、この飛騨の地でさらなる戦いが待ち受けていることを確信し、己の使命を果たすために歩みを進めたのだった。
天文23年(1554年) 武田義信の初陣 ― 佐久郡知久氏攻め
霧が立ち込める信濃国佐久郡の山々に、若き武将の一行が進軍していた。武田晴信(後の信玄)の嫡男、武田義信はこの時わずか16歳であったが、その目には不安や恐れはなく、戦いの炎が燃えていた。父の期待、家臣たちの重圧、そして自身が武田家を背負う者としての覚悟が、彼の心を強くしていた。
その日、義信は重臣の飯富虎昌に導かれ、知久氏の反乱を鎮圧するべく、佐久郡の戦場に向かっていた。軍勢が立ち並び、彼の前に広がるは険しい山々と反乱軍の城砦である小諸城。
義信: 「飯富殿、これが私の初陣。父上が教えてくれた戦術をここで試さねばなりません。」
飯富虎昌: 「殿、恐れることはございません。武田の血が流れておられる限り、勝利は必然。だが、油断は禁物です。常に冷静に敵の動きを見極めましょう。」
義信は頷き、父譲りの冷静さを保ちながら、周囲の地形を細かに観察した。敵は知久氏の城に籠っているが、その配置には隙があった。義信は迅速に指示を出し、側面からの攻撃を仕掛ける策を練った。
義信: 「我が軍を二手に分け、正面からの攻撃は少数で偽装する。主力は山陰に隠し、夜陰に乗じて城の北側を奇襲する。これで動揺した敵を撃滅するのだ。」
飯富虎昌はその采配に驚きを見せながらも、若き主君の成長を実感し、兵に指示を出す。
夜が訪れ、義信の策が実行される
知久氏の城に篭る兵たちは、武田軍の小規模な攻撃に気を取られ、その隙を突いて義信率いる主力が城の裏手に到達した。驚きの表情を浮かべる敵兵たちの隙をつき、武田軍は一気に城内に突入した。
敵兵: 「な、なんだ!武田軍が背後から…!?」
義信は自ら太刀を振るい、戦場の前線に立ち続けた。彼の剣が敵を討ち取るたび、武田軍の士気はますます高まり、知久氏の兵たちは次々に崩れ去っていった。
義信: 「武田家の名に懸け、敵を逃すな!皆の者、進め!」
義信の声に応えるように、兵たちは一致団結し、反乱軍を追い詰めた。彼の指揮のもと、内山城も降伏させ、小諸城の制圧はあっという間に終わった。
飯富虎昌: 「殿、見事な采配でございました。これこそ、武田家の未来を背負う御方の初陣に相応しい勝利です。」
義信: 「皆のおかげだ。だが、これで終わりではない。今後も一層精進し、父上に恥じぬ武将となるのだ。」
こうして、武田義信の初陣は華々しい勝利で幕を下ろした。彼の采配と勇猛さは、武田家中に広まり、若き武将の名は次第に戦国の世に響き渡ることとなった。
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