第28話 三男の死
天文22年(1553年)、信州・武田家。武田信玄の次男、信之は若くして夭折し、家族と家臣たちに悲劇をもたらす。彼の死は、武田家にとって深い影を落とすことになる。
信之は幼い頃から聡明であり、将来を嘱望されていた。母・三条殿は彼に深い愛情を注ぎ、彼の成長を見守っていた。しかし、家族の幸せは長く続かなかった。
ある日、信之が病に倒れると、家族はその容態を心配した。信玄も多忙な合戦の合間を縫って息子の元へ駆けつけるが、時既に遅し。信之は、家族に囲まれながら静かに息を引き取った。
信之の死は、三条殿にとって計り知れない悲しみをもたらした。彼女は自室に閉じこもり、息子を失った痛みで心が押しつぶされそうだった。彼女は「もう生きていても意味がない」と自らの命を絶つ決意を固める。
その時、信玄が三条殿の元に駆けつけた。「竹、どうか思いとどまってくれ。信之は天に召されたが、おまえの命が続いてこそ、武田家は守られる」と必死に訴えた。信玄の言葉に、三条殿は一瞬、ためらいを見せた。
信玄はその後、三条殿を抱きしめ、彼女が涙を流すのを許した。「信之のためにも、私たちは前に進まなければなりません。彼の夢を叶えるために、家族として力を合わせましょう」と彼は語りかけた。三条殿は少しずつ心を癒し、息子の思い出を胸に刻むことを決意する。
信之の葬儀は厳かに執り行われ、武田家の家族や家臣たちが集まった。信玄は、信之の遺志を継ぐことを誓い、家族の絆を再確認した。信之の存在は、武田家にとっての希望であり、悲しみを乗り越える力となった。
信之の死は、武田家の歴史に深い傷を残すが、それと同時に家族の絆を強化するきっかけとなった。信玄と三条殿は、信之の思いを胸に、武田家をさらに強固なものにするために歩み続けるのだった。
三条殿は、上杉謙信を倒すために慎重に計画を練り、越後の長岡にひそかに潜入した。夜の闇に紛れて、地元の道を歩きながら、謙信の居城へと続く隠された道を探していた。緊張感に満ちた空気の中、背後から不気味な気配を感じた三条殿がふと立ち止まると、眼前に姿を現したのは茨木童子だった。
茨木童子は、猛々しい姿をした鬼のような者で、鋭い目つきと力強い体躯で三条殿に立ちはだかった。「何者だ?ここで何をしている?」と低く問いかけるその声には、凄まじい力が込められていた。
三条殿は、冷静さを保ちながらも内心では警戒を強めた。茨木童子がここにいるということは、この地にはさらなる魔力や謎が潜んでいることを意味する。彼女は上杉謙信を倒すための計画を進めつつ、茨木童子との戦いを避けるべきか、あるいは共闘すべきか、その選択を迫られていた。
三条殿は茨木童子の恐るべき気配に冷や汗を流しつつも、心を落ち着けるために深く息を吸い込んだ。この局面を乗り切るためには、ただ剣の技量だけでなく、何か新たな力が必要だと感じていた。その時、彼女の脳裏にある古い伝承がよぎった。かつて、眠りの魔法「ラリホー」が存在し、強大な敵さえも一時的に無力化することができるという話を聞いたことがあったのだ。
茨木童子はその巨大な体を前に進め、三条殿を睨みつけた。「お前がここにいる理由を知っている。謙信を狙っているのだろう?」その声には圧倒的な力があり、三条殿の足元が揺らぐかのようだった。
だが、三条殿は動じなかった。古代の魔法書の断片を思い出し、集中を高めた。彼女は自分の中に眠っていた魔法の力を引き出す術を知っていた。目を閉じ、心の奥深くに潜む魔力を解き放つと、口を開き、静かに呪文を唱えた。
「ラリホー!」
その瞬間、空気がひんやりと静まり、茨木童子の目が鈍く閉じ始めた。強大な力を持つ茨木童子でさえ、三条殿の放った眠りの魔法に抗うことはできなかった。まるで巨岩が倒れるかのように、茨木童子はその場に崩れ落ち、深い眠りに落ちていった。
三条殿は息を整え、目の前の敵を見下ろしながら、次の行動を考えた。謙信の居城までの道が今こそ開かれたが、茨木童子の力を利用することもできるかもしれない。眠りから覚める前に、彼をどう扱うか決断する必要があった。
「この力、使いこなせばもっと多くの敵を倒せるかもしれない…」三条殿は心の中でつぶやき、次の戦いへの準備を進めた。
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