花婿ヒーロー 愛と平和をここに誓います!

@pana_ko_25

序章〖月が綺麗〗

第1話 〖忘れられないプロポーズ〗

「結婚してください!」


約半年の交際を経て、彼女から唐突に告げられた逆プロポーズ。

出会いは友人に勧められたマッチングアプリで、初デートからすぐに意気投合。年齢イコール彼女無し、冴えない大学生。そんな恋愛とは全く無縁だった僕にとって、まさに運命的な相手と言えるだろう。

だがこれは、想像の斜め上を行く展開である。


「あ、えっと……いや、あの、その言葉はもちろん嬉しいんだけど……結婚って、ほんとに?」


途切れ途切れに言葉を紡ぎ、どうにか問い返す。

まだ半年。これから時間をかけて、お互いの仲をより深めていくものだと思っていたから、僕は驚きを隠せなかった。

けれど、小箱の中で煌めく指輪を手に、まっすぐこちらを見つめている彼女の前ではきっと愚問だろう。


「うん、ほんとに!」


屈託の無い笑顔で、彼女__カナリアが言った。


「いや、だって付き合ってまだ半年だし……大学生だし」

「だいじょーぶっ」

「相性とか、色々あるしさ」

「それはもう十分チェック済みでしょうに」

「心の準備もあるし、焦らずもっと時間かけた方が……」

「そんなこと言ってると、婚期逃しちゃうよ?あーあ。せっかく永遠の愛を誓えるチャンスなのになー」


わたし、本気だよ。


笑ったり、少し拗ねてみたり。くるくると変わる魅力的な表情の後、そのどこにも嘘はないと、最後にもう一度示したまなざし。


全く、ずるいよなぁ。

思わず身を預けるように、僕はカナリアを抱きしめた。


「……っそうだ、ご両親への挨拶!」


結婚といえば。勢いのまま発した言葉に、カナリアが目を丸くする。

思えば、これまでも彼女の家族と面識は無かったし、話に上がることも無かった。結婚の報告はやはり早いかもしれないが、せっかくならこれを機に会っておきたい。

しかし、そう伝えるとカナリアの表情は少しだけ、不安の色を見せた。


「うちの両親ね。実はちょーっと変わってて……色々ついていけないかもだけど、大丈夫かなぁ?」

「ついていけないって、皆すごくハイテンションとか? 逆にめちゃくちゃお堅いとか」

「んー、テンションどうこうよりも、まず種族が……」

「種族?」

「あっ、でも君のことはぜったい気に入ってくれると思うから! 結婚だって、人間と同じで当たり前にあるし」

「人間と同じ?」


ちょっと待て。

彼女の妙な言い回しに、思考が一瞬停止する。


「あのー、ごめん。僕の空耳とか、君がそういうキャラで通してるとかならアレなんだけど……君って、どういう家系?」

「えっとぉ……簡潔に言うと魔族?」


魔族!?


「じゃ、実家の住所とかは!?」

「デモニオ市オウガ山」

「……それってどこにある?」

「魔界!」


魔界!?


待て待て待て。理解が追いつかない。

呆然としたまま、身体がゆっくりと崩れ落ちていくのを感じた。

先程の一大決心の瞬間を返して欲しい。いくら男に二言はないと言えど、今ばかりは撤回を求めたい。


「やっぱり、だめかなぁ」


困ったように笑うカナリア。その瞳が微かに潤んでいるのを、僕は見逃さなかった。

__だから、その顔はずるいんだって!


やはり、結婚は相手の事情をよく知ってから決めるのが最善であると改めて学んだ。

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