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人は誰でも自分の中に、自分で決めたルールや法律みたいなものがあると思う。
煙草は吸わないとか。
困ってる人がいたら助けるとか。
浮気はしないとか。
挨拶はちゃんとするとか。
程度の差はあっても、誰にだってそんな感じの、自分だけの決め事みたいなものが存在する。
誰にでもあるそれは、ヤバい事ばっかりしてるあいつにもあったりする。
あいつは、男と女を分けてる。
女を男と同等のラインで扱わないように、ちゃんと違いをつくってる。
どっちが上とか下とかじゃなく、全く違うものとして分類してる。
差別って意味じゃなく、区別って意味でしっかりと分けてるあいつは、どれだけ機嫌が悪くても、女に対して暴力的な危害は加えない。
だからあたしたち女子生徒は、器物を破損されて迷惑を被る事はあっても、暴力的な危害を加えられる心配はない。
その事を、この学校に通ってる女子生徒は、みんな分かってる。
過去に一度だけ、あいつが女を殴ったって話を、噂話で聞いた事があるけど、それにはそれ相応の理由があったんだとか。
その「それ相応の理由」っていうのは、あいつがとても大切にしてる物に、女が何かしようとしたってものだったけど、「大切にしてる物」や女がしようとした「何か」は、噂話をする人によって言う事が違った。
だから結局あたしは、その噂話を聞いてから随分と月日が経った今でも、何が真実か分からない。
もしかしたら、あいつが女を殴ったって話自体が、嘘なのかもしれないとすら思ってたりする。
だってあたしには、あいつが女を殴るなんて、到底信じられない。
あいつは確かにヤバい奴だけど、そんな事はしないと思ってるから。
男と女を分けてるあいつは、接する距離感もしっかり分けてて、女に対しては多少の馴れ馴れしさを許してる。
あたしはあいつと、同じ学年ではあるけど、それほど仲がいい訳じゃない。
それなりって程度でしかなくて、あたしくらい仲が良い女は他にもいるし、あたしより仲が良い女だっている。
だけどあいつは、あたしが「あんた」って呼ぶ事も、少々踏み込んだ会話をする事も許してる。
もちろん他の女にも同じくらい許してるし、気分次第ではあるけど、あいつから世間話程度に女に話しかけるって事も普通にある。
それとは逆に男となると、この学校で言うなら、あいつとタメ口で話せるのは、本当に親しい間柄の数人しかいない。
それ以外は全員敬語で、唯一誰もがあいつを呼び捨てにするのは、あいつの耳には誰が言ってたのかは入らない、噂話をする時だけだ。
会話をするのも仲間とだけ。
仲間以外の男子生徒への言葉は、一方的に因縁をつける時くらいにしか発しない。
そんな風に、男と女を分けてるあいつは、サクラって子と付き合うまで、女癖が悪かった。
簡単に言えばヤリチンだけど、そんな簡単な言葉で片付けられるような度合いじゃなかった。
顔が良すぎる上に、強さまで持つあいつは、引く手
それをいい事に、手当たり次第って感じで、女に手を出してた。
もちろん無理矢理ナニかするって訳じゃないし、騙してナニをするって訳でもない。
大抵の場合が、あいつの女癖の悪さを理解した上で、女の方から寄っていく。
あいつが「野獣」八代目総長になってからは、地位だか羨望の眼差しだかを得る為に仲良くなろうと、あいつの女癖の悪さを利用して、寄っていく女もいた。
何人もの女と同時に付き合って。
セフレの数もひとりやふたりじゃない。
一度限りの相手はもっとずっといっぱいいて。
自分の弟の彼女を寝取った事も一度や二度じゃない。
あたしが通ってる学校は、そもそも女子の数が少なくて、全校生徒の二割にも満たない。
あいつはその半数以上と、一度は体の関係を持った事がある。
あたしの友達ふたりも、あいつとヤった。
そしてあたしも、あいつと一度ヤった事がある。
――シズネ、セックスしねえ?
学校の廊下で、すれ違いざまに、そんな言葉で誘われた。
あいつとしては別に誰でもいいって感じだった。
あいつがヤりたくなった時に、たまたまあたしと廊下で会ったってだけ。
あたしが断れば、次に会った女に、間違いなく同じように声を掛けてただろうと思う。
あたしは「別にいいよ」って言った。
そんな返事をしたのは、あいつに恋愛感情を持ってたからじゃなく、興味本位からだった。
その頃もう既に、あたしの友達はあいつとヤってて、その友達からあいつはセックスが上手いって話を聞いてたから、どんななのか興味があった。
処女って訳でもないし。
彼氏がいる訳でもないし。
貞操観念まあまあ終わってるし。
遊びでヤるのは初めてじゃないし。
本当、興味本位からの軽い気持ちだった。
誰もいない空き教室で、あいつに抱かれた。
あいつの抱き方は、思ってたのと全然違った。
普段のあいつから考えて、乱暴か強引な抱き方をすると思ってたのに、あたしの肌に触れる指使いも舌遣いも、驚くほど優しかった。
上手さがどうこうって以前に、今まで経験した事がないくらい優しく触れられて、バカみたいに気持ち良かったのを覚えてる。
しかも、そんなに時間もかけないですぐに突っ込んでくるかと思ったのに、長い時間丁寧に、充分すぎるくらいあたしの体を濡らしていった。
――おい、
与えられ続ける気持ち良さに、意識が半分どっかにいってたあたしは、その言葉にあいつに目を向け、ゾクリとした。
仰向けになって寝転んでるあたしの両足の間で、膝立ちになって少し顔を俯かせ、上目遣いにあたしを見るあいつの、ミルクティーベージュ色の前髪から覗く目は情欲に駆られ、まるで飢えた
色気っていうものがどこから出てくるのかは知らないけど、あの時のあいつの目には、怖くなるくらい男の色気があった。
あいつがあたしのナカに
色んな事が規格外のあいつは、ソレすらもあたしにとっては規格外だった。
ぎちぎちにナカに埋め込まれて、痛みはないけど息苦しさを感じた。
――おいコラ、腰引くな。
苦しさから自然と体が逃げてしまうあたしの腰を、あいつは優しく笑って両手で捕まえて、あたしの奥深くまで挿入ってきた。
逃げないようにあたしを押さえ込むあいつのヤり方は、激しさはあっても荒さはなく、やっぱりずっと優しかった。
触れ方も。
声も。
キスも。
息遣いさえ。
愛されてるんじゃないかと勘違いするほどに。
そんな時間は結構続いた。
与えられ続ける強い快感に、意識がどっかに飛んでいきそうになるあたしを、あいつは更なる快感で何度も引き戻した。
そしてあたしは、見てしまった。
あいつが
その瞬間。
あたしは恋に落ちてしまった。
その後、あたしの恋心を知った友達は、一言「ヤバいね」と言った。
友達の言う「ヤバい」って言葉が、どういう意味なのかは分からない。
分からないけどあたし自身、ヤバいと思ってる。
あいつの事を「ヤバい」と思う度、好きの気持ちが大きくなる、あたしはマジで相当ヤバい。
あたしはそんな、ヤバくて熱い想いを
ただ。
――お前のその、いつもどっか冷めてる感じ、嫌いじゃねえよ。
その想いを表に出す事が出来ないだけ。
その方法が分からないだけ。
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