04 バナナになりたい(2181文字)

「バナナになりたいです!」


 幼稚園のお誕生日会、おおきくなったら?の質問に、元気に答えた私。

お友達や、そのお父さんお母さん達に暖かい笑い起こる中、先生から


「そっかぁ、バナナが好きなんだねぇ」


と言われ


「はい!大好きです!バナナになりたいです!」


と答えると、その場は一層笑いに包まれた。


みんなから、かわいいとか子どもらしくて良いといった声が聞こえる。


『みんな楽しそう。やっぱりバナナ大好き』


私もとても楽しい気分になった。


ーーー


 小学生になってからも私のバナナ好きは変わることなく、友達や先生からも、バナナといったら私と言われるくらいになっていた。


「バナナになりたいなんて変だ」


なんて、からかわれて嫌な気分になったこともあったけど、言いたい人には言わせておけばいいと思って、気にしないことにした。


 うちの小学校では、ランドセルに拳大こぶしだいまでの飾りを一つだけ付けるのが許可されている。もちろん私はバナナのマスコットを付けていた。

 言うまでもなく、文房具類なども ほとんどがバナナ柄だ。

 あと、遠足のおやつも、やっぱりバナナだ。バナナが おやつに入ろうが入るまいが。


 ただ、3年生ぐらいになると、将来の夢は


「バナナみたいな人になりたい」


と言うようになった。流石にバナナには成れないないし、成りたくはない。ただ、小さい頃は少し表現力が乏しかっただけで、気持ちはほとんど変わっていない。


ーーー


 中学生になっても、私のバナナ好きが変わることはない。三つ子の魂百までというやつか。

 ただ、中学生ともなると周りも理由を色々いてくる。

 でも、バナナの素晴らしさを上げ出したら切りがない。

 まず、最初に、なんといっても美味おいしい。常温でも、冷やしても、凍らせても、火を通しても美味しい。そして、他のどの果物よりも剥きやすく、洗う必要もなければ手を汚すこともなく、すぐ食べられる。さらに栄養も豊富。オリンピック選手が試合前や試合の間に食べているだけあって、栄養面の話だけで、ずっと語っていられる。ビタミン、ミネラル、食物繊維、オリゴ糖、カリウム、それから免疫活性の話も。それでいて単価が安い。それから…

だいたいこのあたりまでで、ほとんどの人は


「ももええわ」


ってなって聴いてもらえなくなる。まだ言いたいことあるのに。


ーーー


 高校生になっても、もちろん目指すはバナナみたいな人である。


 この頃になると、流石さすがに人に説明するのも上手くなってきて、身近で親しみやすく、老若男女ろうにゃくなんにょも洋の東西も問わずに愛されてるとか、どこかユーモラスな見た目に反して幅広い栄養(実力)を備えてるところとか、青い時から完熟まで それぞれの良さが認められてるところとか、わりと納得してもらえる事も増えてきた。


 そして、就職試験に向けた校内での面接練習。

正直、少し悩んだものの、自己PRとしてバナナの話をした。

担当してくれた先生は少し考えた後、インパクトもあって内容も凄く良いが、もう少しだけ伝わりやすい表現にしたほうが良いと、バナナを否定せず真剣に考えてくれた。


ーーー


 私がここまでバナナ好きになったのは、ちっちゃい爺ちゃんの影響だ。

ちょっとややこしいか、ちっちゃい爺ちゃんは、おっきい爺ちゃんのお父さんで、私の母方の曾祖父だ。


 おっきい爺ちゃん、つまり祖父は、父と同じぐらいの身長で、父より筋肉質で実際に力も強い。優しいんだけど、いかついので黙ってると少し怖い印象がある。


 それに反して、ちっちゃい爺ちゃんは、つまり曾祖父は、母と同じぐらい身長が低く、いつもニコニコしていて、でも時々 不思議な迫力もあり、仙人みたいで魅力的な人だった。


 私が物心付いた頃には、兄や従兄弟いとこ達はみんな、二人の爺ちゃんをそう呼び分けていたので、私も自然とそう呼んでいた。


 その ちっちゃい爺ちゃんが、無類のバナナ好きだったのだ。

ただ好きなだけでなく、その知識も相当なもので、バナナのことで知らないことは無いんじゃないかと思えるぐらい。

そんな話を聴くのが好きだった自分は、そのために爺ちゃんちに行くのが楽しみだった。

 なので、私が語るバナナの魅力や知識は、ほぼ全て ちっちゃい爺ちゃんからの受け売りだ。

 なかでも私が一番好きなのが


「バナナは人を笑顔にする」


ということだ。

ちっちゃい爺ちゃんわく


「どんなに いかつい怖そうな見た目の者でも、バナナの皮をスルスルと剥いて、パクついとる姿を見れば、ちょっと可愛いとか、悪い人じゃなさそうに見えて、ちょっと微笑ましいじゃろ。実際は悪い奴だったとしても、きっとバナナを食べとる間は、悪い奴じゃ無くなっとる」


 ほんと、その通りだと思う。


ーーー


 就職試験を間近に控えたある日、ちゃちゃい爺ちゃんの急な訃報が届いた。


 百歳目前だったこともあり、身内はみんな大往生だとか言っていた。

 私としては、ほんと仙人のような印象だったので、亡くなる日が来るなんて考えてもみなかった。


 みんなから、バナナ仙人の跡継ぎはお前だと言われ、まだまだそんな歳ではないと言いながらも、悪い気はしなかった。


 祭壇にも大量のバナナが供えられ、ちっちゃい爺ちゃんの遺影は、いつも以上の笑顔に見えた。

「任せたぞ」

と言われたような気がした。


ーーー


 そして迎えた就職試験。

『ちっちゃい爺ちゃん、見ててな』


「バナナのような人になりたいです。理由は…」

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