第2話

郊外のさらに奥、森に近い場所に位置するボロ家から車に揺られること2時間半。ようやく目的地に到着した。油断すれば殺られてしまうかもしれない緊張感から一睡も出来ず、ただ窓の外の景色を眺めていた。


「着きました。ここがこの国最大の国家機関、内閣官房庁です。」


見上げる程高い建物に広い敷地。俺には馴染みのない場所だ。郊外から出る事も無い上にそもそも仕事以外で家から出る事もない。太陽光すら久しぶりに浴びたのに、都市の賑わいと熱気にやられて今にも倒れてしまいそうだ。


「さぁ入りましょう。元首がお待ちです。」


俺のような犯罪者を待つ時間があるなどこの国のトップはさぞかし暇なのだろう。それとも、犯罪者の手をも借りねばやっていけないほど、この国が衰退していっているのだろうか。まぁどちらにせよ、俺には関係ない。いつも通り依頼をこなすだけだ。


彼女に案内され建物の5階、その長い廊下の突き当たりにある重厚感溢れる扉を開けた先には少しピリついた空気が流れていた。こちらを品定めするような鋭い目つきが一気に突き刺さる。どうも歓迎はされていないようだ。


「なんの御用でしょうか?金さえ払えば何でもしますよ」


お得意の貼り付けた笑顔で相手の様子を伺う。国の重鎮達はその場から一切動かず、ただ黙っているだけだ。おそらく元首の動きを探っているのだろう。


「マルアーノはご存知かな」


ようやく口を開いた元首が俺に問いかける。

マルアーノはここバステンから北東へ進んだ場所にある近隣国だ。貿易が盛んで様々な文化が入り交じるバステンとは違い、緑豊かで畜産や農業などを生業とする人が多い自然を大切にする国だ。


「えぇ、存じております。」


「そこに君と同じ殺し屋を育成する教育機関が存在する。その名をレノルズ学院、約200名の学生が通う表向きでは畜産、農業などを学ぶ養成学校だ。」


殺し屋を育成する教育機関...?何十年も生きてきたがそのような施設を見聞きしたことは一度もなかった。もちろん依頼を通して様々な国へ出向き、マルアーノへも何度も足を運んだことがある。しかし、そんな怪しい施設は見たことがない。基本、殺し屋の仕事に就くものはその家系に生まれるか、引き取られた者が技を教え込まれ何年にも渡る修行の後にプロの殺し屋となる。もちろんリスクも付き物であり、労働中に殉職することも少なくない。わざわざ自ら選んで渦中に飛び込むなんて馬鹿げている。


「その教育機関は国が運営しているものだ。そしてそこに通う学生は皆孤児であるらしい。」


「つまり、国が学生を良いように使うためにこのような機関を建てたと?」


「あぁ、そうだ。もう何百年も前の話だが、バステンとマルアーノは戦争関係にあった。現在は冷戦状態で、ほとんどの国民も忘れているが敵国関係は続いている。」


「マルアーノはうちに刺客を送り込もうとしている...そういうことですね?」


「その通りだ。国の安全のためにも早急にこの事は対応せねばならん。そこで君に頼みたいことがある。」


何だか嫌な予感しかないが、国からの依頼となれば報酬はたんまり貰えるだろう。それに加えここまで来てしまえば断ることはほぼ不可能。断れば即お縄決定の状況に覚悟を決めるしか無かった。


「君には学生としてその教育機関に潜入し、全生徒を暗殺して欲しい。決して最後の一人を殺し終えるまで正体をばらさないように。」


「それって...」


一瞬にして背筋が凍る。ただ淡々と冷たい声で命じられた依頼は今まで受けてきたどんなものよりも残酷で難関だった。


「標的が同業者ってことですか!?」


「同業者と言っても君はプロで向こうはまだ卵だ。力の差は大きい。」


「だとしても200人をバレないようになんて」


「出来ないなら分かってるな」


先程までと同じトーンで突きつけられた最悪の言葉に足がすくむ。もうやるしかない。この家系に生まれたが縁の尽き。最初から後戻りなんてできなかったのだから。


「もちろん、やらせて頂きます。この任務完璧に遂行してみせますよ。」


言葉からは自信が溢れ出しているのに対して全身は酷く震えている。これが二つの国の運命を変える大きな一歩になるとは思ってもいなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アサシンキラー 〜標的は同業者!?〜 阿祇那由汰 @sht_69rori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ