第25話
「四人も仕えたの? てか聖女って短命なの?」
ハクトは眉をよせた。
「いいえ。皆様、寿命を全うされておいでです。ひとりを除いて」
「どういうことだよ」
ハクトの口元が笑いの形になる。けど目は笑ってない。
「もしかして、ルルクル人の寿命がめっちゃ長いとか?」
「いいえ。普通のルルクル人は、異世界人と同じほどの寿命でございます」
「……」
ハクトが疑問符を顔に浮かべて黙りこんだので、チレも黙った。
どうやらこの話をしなければならないときがきたようだ。今までは敢えて避けていたのだが、仕方がない。いつかは伝えねばならぬことなのだから。
「私が歳をとらないのでございます」
両手をローブの前であわせて、厳かに告げる。
「なんで?」
ハクトが目をまん丸にした。
「過去の聖女様が、そのように魔法をかけたからでございます」
驚きに口をあけたままのハクトに、チレは説明を続けた。
「召喚神殿には、『聖徒』と呼ばれる者が三名います。神官長、大召喚師、世話役。この三名は、歳を取ることがありません。昔々、初代聖女様が、後任聖女の魔物討伐が滞りなく行われるようにと、必要な知識を蓄積するためにと、歳を取らない『聖徒』という地位をお作りになられました」
「じゃあ、お前は、不老不死の身体を持つのか?」
「いいえ。私は不死ではありません。大怪我をしたり大病を患ったりすれば死にます。ただ、歳を止められているだけです。私自身、三代目の世話役なのでございますよ」
「そうなのか……」
唖然としながら、ハッと何かに気づいたようにする。
「じゃあ、俺も、魔法で歳をとらずにいられる?」
チレは微苦笑しながら首を振った。
「いいえ。聖女様のように強大な魔力を持っておられる方をそうするには、それを越える強い魔力が必要です。ですから、それは無理かと。私どもルルクル人は、聖女様から見て取るに足らないちっぽけな存在なので、こういった魔法をかけることもできるらしいです」
「なんだ。……残念だな」
ガッカリした顔で肩を落とす。そして、ちょっと唇を尖らせる。
「じゃあ、お前は、俺が日本に帰れずにここに残ったら、いつか俺が老いて死ぬのを看取るわけか」
「……そうでございますね」
チレはローブの前をギュッと握った。
「んでもって、次の聖女がきたら、またそいつの世話をするわけだ」
ハクトの声がわずかに冷たくなっている。――気がした。
「……それが私に与えられた使命でございます」
「ふぅん」
ハクトはつまらなさそうに唇を尖らせたまま、クルリと踵を返した。
「そっかぁ。なるほどね」
歴代聖女を眺めながら、部屋の中を歩き回る。
その後をついていくチレは、ちょっと沈んだ気持ちになった。
自分が歳を取らないことを、チレはできるだけ他人に話さないようにしている。なぜなら、話せば必ず今のようになるからだ。羨まれたり、冷淡な対応をされるようになって、お互い居心地の悪い思いをする。
人よりずっと長く生きることの大変さを、他人が想像するのは難しいかも知れない。けれどそれも仕方のないこと。経験したことがない者にはわからぬ不幸なのだから。
その後ハクトは黙ったまま廟を歩き回って、しばらくすると「もういいや。飽きた」と一言告げて部屋に戻っていった。
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