第20話
「……何だか、恥ずかしいですね」
不思議な気分で自分の身体を眺めた。
短くなったローブから出たむきだしの部分がスウスウする。モジッと上半身を捻って隣に視線を移すと、ハクトは目をみはってこちらを見つめていた。黒い瞳をまん丸にして。
「……え? 何ですか? どこかヘンでしょうか」
チレがたずねると、何故かハッと身体を弾ませて、それから視線をさまよわせる。
「あ。や。いや。別に。ヘンではない」
ぎこちなく手をあげて否定した。
「では、同じ異世界人になったのなら、その、愛しあう行為というものができるわけですね」
トトが嬉しげに言った。
「どうぞ、試してみてください」
「えっ。お前らが見てる前で?」
ハクトが嫌そうに眉をよせる。
「そ、そうでございますね。では我々は失礼して。結果がわかればまたご報告ください。変化がなければ他の方法を考えますから」
「儂らは隣の部屋で待機しましょうか」
神官長とトトは挨拶をしてそそくさと部屋を出ていった。
残されたハクトが、ちらりとチレに視線を移して言った。
「……しょうがねえな」
困り切った声で呟く。
「じゃあ、ちょっと、さわりだけやってみるか」
咳払いをして、姿勢を正す。その目元は少し赤らんでいた。
「……さわりと言いますと?」
チレが首を傾げる。すると肩まである栗色の髪がさらりと揺れた。
「つ、つまりだな。その、……キ、キスだけしてみるかってことだ」
「あ、ああ、……なるほどです」
ハクトがいつもの俺様ぶりをなくして恥ずかしそうに言うものだからこっちも照れてしまう。
「多分、えっと、怪我をしたときもそうだったが、身体の内側というか、粘膜的な接触が必要なんじゃないかと思うんだ。だから、そういうところを重ねあわせれば、魔力も流れてくんじゃないかと、考えてる」
「は、はぁ、ね、粘膜、ですか」
チレも全身が熱を持って、顔がポッポッとしてきた。
「で、では、その、ハクト様にお任せいたします。異世界人のやり方は詳しくありませんので」
「バカ言え。俺だって詳しくなんかねーぞ」
「え? そうなのですか」
チレは目をパチクリさせた。
「ではハクト様は童貞ということですか?」
「ばっ、バカヤロー、そっ、そんなこと、はっきり口にすんなっ」
ハクトは目に見えて焦った様子で言い返した。
「お前うるせえぞ。何だよ、セックスには過剰に反応して恥ずかしがったくせにドーテーは簡単に言い放つとは」
「ハクト様こそなぜ童貞に過剰反応なさるのですか。童貞はいいことです。心も身体も清くなければ童貞でいることはできません。この世の淫欲から身を守り汚れを知らずにいるので、童貞は高貴な存在なのですよ」
「ドーテードーテー繰り返すな」
ちょっと傷ついた顔になって文句を言う。どうやら異世界人とは考え方が異なるようだ。
「わかりました。すみません。もうハクト様には童貞と申しあげません」
「おう」
頬を赤らめた童貞ハクトが偉そうにうなずいた。
「じ、じゃあ、ちょっとだけ、試してみるぞ」
「はい。わかりました」
チレはしゃんと背筋を伸ばして、ハクトを見つめた。
「目ぇとじろ」
「はい」
言われたとおりにする。すると咳払いをしたり、服を手で撫でたりする音が聞こえてきた。やがて前振りが終わり、相手の両手がチレの肩にあてられる。それに少しだけ緊張した。
「……いくぞ」
「はい」
静かないっときがすぎた後、唇にふんわりとやわらかなものが触れてくる。押しつけるようにされたその物体が、ハクトの唇なのだと理解するのにちょっと時間を要した。
――あ、キス、している。
温かな唇はわずかに震えていた。
チレがそっと瞼をあげる。すると目の前にハクトの顔があった。相手は目をとじていた。黒い睫がかるく弧を描いている。それをぼんやりと見つめた。
異世界人は毛の生えている場所がとっても変。ルルクル人とは全然違う。
けれど、恋をしたりキスをしたりするのは同じだ。そして愛しあう行為があるということも。
ハクトが唇を動かし、チレの唇をゆるゆると撫でてくすぐってくる。チレは思わず口をあけてしまった。そこに相手の舌が忍びこむ。
――あ……。
舌同士、先っぽを挨拶するように触れあわされて、急に背筋がゾクゾクッときた。両腕がわなないて、チレは反射的にハクトから逃げようとした。手を振りほどこうとすると、なぜかそれを押しとどめるように、ハクトが手に力をこめる。グッと抱きよせられてチレは困惑した。
――何? この、感覚は?
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